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「手紙?」
「うん、将臣くんから」
子供達が眠ったので、散策がてら親友の部屋へ。
恐らく女房から受け取ったのだろう文を、望美はにこやかな表情で読んでいた。
「平家の人たちすっごく元気だって」
「そう、良かったわね」
「兄さんの事は心配する必要ありません。あの人はどこでも生きていけるので」
譲も言うようになったわね。
なんて思いながらも、曖昧に笑うだけに留めた。
それから、ふと、ある考えが浮かぶ。
「───ねぇ、望美。将臣に‥‥」
あなたはどんな反応をするのかしら?
そんな期待で胸を膨らませながら、少女のような気持ちで望美達と秘密の話に興じた。
比翼風火 誕生日特別編2009
宴
「頭領!」
今まさに進水しようとした時、俺を呼ぶ焦った声音。
‥‥水軍衆の一人だった。
「どうした」
「おっ、奥方様がお呼びです‥っ!」
「‥‥風花が?」
‥‥胸がざわめくのは、昔の焦燥を思い出すからか。
「は、早くお戻り下さい!」
「分かった。後は任せたぜ」
風花が呼んでいる。
それは初めての事態だから、オレは用件も聞く事無く邸への道程を急ぐ。
何かあったのか。
何が、あったのか。
邸にはある意味最強の用心棒の姫君と、弓の腕は確かな野郎がいる。
あいつらにも手に負えない事態でも?
そう思いかけたが、即座に否定する。
そうじゃない。恐らく‥‥‥。
「‥ヒノエが来るよ」
「さすが白龍だね」
この邸に帰ってきた、ヒノエの気を感じ取ったらしい。
顔を上げた白龍が望美に褒められていた。
今頃、慌てているのかしら。
ヒノエが海に出ている間に準備をして。
水軍衆の一人に伝言役を頼んだのはいいけれど、頼んだのが望美だったから、一体何と伝言したのか分からない。
とまで、思ったとき。
「風花」
背後の部屋の入り口から聞こえる、少し笑い混じりの声。
振り向いた私を余所に、望美達が口々に喋りだした。
「あ、主役が帰ってきたよ!」
「おう、遅かったじゃねぇか」
「お帰りなさいヒノエ。随分息を切らしてどうしたんですか?」
「ほら、皆さん盃を持ってください。乾杯の音頭は景時さんにお願いします」
「え、ええ〜っ!オレ?‥いやぁ、譲くんの頼みなら張り切っちゃおうかな〜」
当のヒノエは、一瞬だけ彼らに目を向けたきり、ひたすら私を見ている。
‥‥ああ、そういう事なの。
どうやら、周りを見ないようにしてるらしい。
「お帰りなさい」
「ただいま、オレの愛しい花。どうしたんだい?」
「ごめんなさい。心配かけてしまったかしら?」
「奥方様のお呼び出しとあらば何処までも喜んで、ってね。体調が悪いんじゃないなら、急用かな?」
私の前に腰を下ろして、手を伸ばして。
指先が私の顎を撫でながら上げる。
熱を持って見つめてくる、紅。
「それとも‥‥‥オレが恋しかった?」
「ヒノエ‥」
ヒノエが小さく笑って、顔を近づけてきた。
「もうっ!!いつまでいちゃこいてんの!?離れてよっ!!」
見てられない、と言いながら望美が私達の間に割り込んで来て。
手を離したヒノエと言えば、溜め息を吐いた。
「‥‥で?伝言は望美だろ?」
「ご名答。さすがヒノエくん。風花からじゃないって気付く辺り、執念を感じるよ」
「あぁ、オレの姫君はそんな中身のない呼び出しはしないからね」
「発案者は風花だけどね」
「‥風花?」
もう一度こちらを向くと同時に、私は笑った。
「お誕生日おめでとう。私からのお祝いなの」
「‥‥‥」
心から笑う私の前で、なんとも言えない微妙な表情。
それもその筈‥‥
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