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「ヒノエ?‥‥‥もう、何処に行ったのかしら」



熊野本宮の裏の森の中に建てられた私達の新居。
中は探し回って、けれど求める夫の姿は見えなかった。



こんな事なら出掛ようと、約束すれば良かった。

はぁ、と溜め息が出る。





探し回って立ち止まれば、そこはご神木の前。
何時の間にやらこんな所まで来たの。



「‥‥‥本当に、何処に行ったのか」



ぽつり、滲む自分の声が頼りなくて。



神木の幹に額を付ければ、ひんやりと癒してくれる波動を感じる。

ホッと安堵の息を漏らして眼を閉じた。



「何をお探しかな?可憐な花嫁」

「え?‥‥ヒノエ!?」



見上げた木の上から落ちる、紅い影。

軽やかな音を立てすらりと立ち上がれば、やっぱりヒノエだった。



「何処にいたの?探したわ」

「ああ、ちょっとヤボ用ってとこでね。それで?」

「‥‥‥え?」

「探していたんだろ?姫君」

「そうなの。海辺で店が出ているんですって。外から来た人みたいよ」



新しく熊野にやって来た店がどんな物を扱っているのか、興味がないと言えば嘘になる。


けれど、それよりも気になっているのは、その人物の『目的』。


最近は熊野も物騒になったらしい。

この前も、商人と偽りヒノエの殺害未遂事件があったらしい。
らしいって言うのは、私がそれを聞いたのは全てが終わった後のことだから。

ショックを受け無いように、との彼なりの配慮だったのは分かるけれど、私は悔しかった。





そんなことがあって、今回。

熊野に害を成す為にやって来た者がいるのなら、見過ごせない。



偵察がてら、その真意を調べようと思った、けれど‥‥‥。



「‥ヒノエの事だから、もう調べた後だったり‥‥‥する?」

「ふふっ、ご名答」



小さく笑って、ヒノエの右手が私の頬を撫でる。


さわっとした感触がくすぐったくて眼を閉じた。




‥‥‥瞬間、唇に触れる熱いもの。



「‥‥‥んっ‥」



ヒノエとのキスは、いつまで経ってもドキドキさせてくれる。



更に唇を強く重ね、甘く甘く吸われる。
そうして暫く触れ合って、そっと離れた。




無意識に指で辿れば、彼の熱が恋しい。



「お手をどうぞ、風花」

「‥‥‥何処へ?」

「新しい店。気になるんだろ、俺の花嫁は」

「でも、先に調べて来たって‥‥‥」



もう調べ終わったのなら、わざわざ再び行く必要ないのに。



「そりゃそうさ。お前を連れて行く先に危険があってはいけないしね」



下調べは男の義務だろ?





ヒノエは私の手を取り、唇を当てる。

それから、見惚れる様に綺麗な笑顔を見せた。



「行こう。お前に似合う宝玉をオレに選ばせなよ」

「そんな。ただでさえ私、沢山貰い過ぎたもの。それならヒノエの物でも探さない?」

「沢山?何を言ってるんだい?お前と言う花は日々違う色に咲き誇るんだぜ‥‥‥いくらあっても足りないさ」




肩を並べて歩きながら、ふと眼前に影が射して。
同時にキスが降って来た。








花色





「前から思ってたけど、ヒノエって過保護よね」

「そうかい?過保護にさせるのは風花だぜ?どんな男も惹き付ける、花の笑顔がさ」

「‥‥‥馬鹿」




四六時中傍に張り付いて他の野郎共に、お前が誰のものか見せつけないと‥‥‥ね。








20081026

   
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