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‥‥‥結局、昼間の事を言う気になったのは、再びの情熱が過ぎてからのこと。
「ああ‥‥‥アレの事?だったら酷いな、風花は」
「酷い?どうして私が?」
‥‥‥満更でもない顔してたじゃない。
そんな思いを込めて睨んでみせれば、ヒノエはクスクス笑い出した。
頬に触れるヒノエの素肌が愉悦に震える。
「‥‥‥何?」
「オレは待ってたんだぜ?何で助けてくれなかったんだい?あんなに困ってたのに」
「困ってって‥‥‥あ」
そこで私はやっと気付いた。
あの場にいた私に気付いたからこそ、ヒノエは絡まれた腕を振りほどかなかったのだと。
「意地悪‥‥‥助けるって‥どうすればいいか分からないのに」
「私のヒノエを盗らないでって‥‥‥ヒノエは私の世界で一番格好良い旦那様なんだからって」
「自分で言うかしら?」
おどけた口調に思わず噴き出すと、ヒノエはまた唇を重ねてきた。
甘くって、蕩けるようなキスで。
「ヤキモチ焼いてる風花を見るのも可愛いくて好きだけど、やっぱりオレはお前に独占されたい」
「ん‥‥もう」
「その可愛い声で、この唇から‥‥他の姫君に教えてやってよ。オレが誰のものか」
「‥‥何、言ってるの」
彼の瞳がいつも通りの悪戯っぽく、そして優しい輝きに染まってゆく。
そのまま顔を寄せて、耳元に囁くのは‥‥少し擦れた甘い声。
「‥‥‥風花?その口で教えてくれよ。オレはお前に囚われていたいんだから」
一晩中、絶える事無く続く甘い束縛。
より深く囚われているのは私のほう。
そう思いながらも、堂々と嫉妬していいというヒノエの言葉は嬉しかった。
「ヒノエ、今晩空いてる?」
「夜の海に船を出してよ、ヒノエ」
何時でも何処でもヒノエはモテまくる。
例え彼が結婚していても変わらない。
寧ろ「奥方様だけでは飽きるでしょう?」なんて堂々と誘う女の子もいたりする。
隣に私が居ても気にせずに。
仕方ない、そんなことは分かっていたもの。
‥‥‥けれど、以前とひとつだけ違うのは。
『どうするんだい風花?』
女の子に組まれた腕を離すこともせずに、私に眼で訴えるヒノエ。
きゅっと笑みを浮かべる口元。
彼が何を期待しているか物語ってくれる。
本当、いい根性しているんだから。
伸ばした両手でヒノエの襟を掴む。
ぐっと引き寄せて、愛しい唇を‥‥私から奪った。
「ヒノエは私の夫なの。離れてくれる?」
離れた唇を笑みに変えて、私は告げた。
迫力に気圧されたのか、突飛な行動に呆気にとられたのか。
ヒノエから容易く離れた腕を眼の端に捕らえた。
それから少し目線を上げれば
満足そうに笑う二つの紅。
「‥‥‥これで満足?」
「まさか。足りるわけないだろ?」
襟を掴んだままの手を逆に引かれて、気が付けばヒノエの腕の中。
「あれ位で終わられちゃ困るね。毎日、オレを夢中にさせてるお前を見せつけてやりなよ」
「‥‥‥バカ」
ヒノエの顔が近づいて、唇がふれて。
眼も眩む様な長い長いキスに夢中になって、外だと言うことも忘れていた。
「愛してる、風花」
‥‥‥私はきっと彼には叶わない。
この嫉妬心までをも、彼の望むままに与えてしまう。
『熊野別当は奥方様に夢中』
なんて巷で囁かれるようになったのは、それからすぐのこと。
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