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たった一人の家族を失ったのは


深々と積もる雪の真新しさを愛しく思えた、冬
















「あかり‥‥‥私達に出来ることがあったら、遠慮しないで言って」

「ありがとう。望美が来てくれただけで嬉しいよ」

「ううん。だって、私もおばさんの事、大好きだったからっ‥‥‥」



今にも泣きそうな望美は、けれど泣かない。

涙一つ零さない私の前では泣けないのだろう。
後ろで譲が少しハラハラしながら望美を見ていた。


俯く親友の言うとおり、確かに母と望美は気があっていた。

どちらも明るく活発でいつも笑う人。
少しおっちょこちょいな所も、本当にそっくりだった。


まるで母さんと望美が親子みたいだよ。


なんて望美が遊びに来ていたある日言えば、二人して「あかりがいるから笑えるんだよ」なんてよく分からない事を同時に言ってたっけ。





‥‥‥‥そんなことを思い返しながら見上げるのは、母の遺影。

さっきまで突然の母の事故を悼んでくれ涙してくれた人達は、暖かい言葉を私に掛けてくれて帰っていった。




これから遠い親族の人達と、斎場で食事をする事になっている。



母の生前には連絡すら拒否していたのに、

母が信頼していた友人達より‥‥‥この人達と語り合わなければならないなんて。
しきたり、って言葉が酷く重い。



「あかり‥‥‥あかりさえ良かったら、私達ここにいるよ?」

「‥‥あの人達とはこれからの事を話さなきゃなんないし、内々の事になるから望美が邪魔だって言われちゃうかも知れないし‥‥いいよ」

「でも‥‥」

「瀬名先輩、俺たちの事なら平気ですから」


心配そうに眼を潤ませる望美と、隣でやはり心配そうな譲。

実際心配なのだろう。
あの人達の私を見る眼に気付いてしまったようだから。



「大丈夫。ありがとう‥‥‥帰ったら連絡するから」

「うん‥‥‥話、聞かせてね」

「了解。今日はありがとう」


二人は何度か振り返りながら、斎場を後にした。

入り口まで見送って、中に戻りかけた私は、閉められたドア越しに聞こえる会話に足を止めた。

……忌々しげに囁かれている「瀬名あかり」っていうのが私の名前だと、気付いて‥‥‥。




私は喪主で、未成年で、唯一の保護者を亡くして。

だから、これからの身の振り方を決めなきゃならない、んだけど‥‥。











「あかりって子、結局誰が引き取るの」

「ああ、ウチは無理だよ。今年受験生の子を抱えているからね」

「それを言うならウチも無理だよ。全く姉さんも、死ぬなら子供をどうにかしてからにしてくれよ」

「情の薄い子ね。母親の葬式だってのに一つも泣かないで、友達と喋っているんだから」




‥‥‥‥そんなの、私が一番思うよ。

どうして連れて行ってくれなかったの、母さん。
どうして泣けないの、私。

















ノブに触れた手がそれ以上動かないのは、会話が聞こえたからか


それとも‥‥‥




「あかり」

「将臣‥‥まだ帰ってなかったの」



将臣が後ろから抱きしめてくれるからか、どっちなんだろう。



「まぁな。望美と譲が心配してたぜ?」

「そうだね。だから残っててくれたんだ?ありがとう」

「あー‥‥‥ま、今はそれでいっか」


このときの私は、将臣が此処にいるのは望美と譲に頼まれたからだと思っていた。

なんていうのかな?
将臣って魔法みたいに人の心を軽く出来る術を持っているから。
だから望美達も頼んだのだと、そう思った。













他の理由を考えたくなかった。






「あかり、俺達がいるから」

「‥‥‥ありがとう」














ただ、将臣の体温が、望美の気遣いが







壊れそうな心を

真綿のように包んでくれた。




そっと、そっと




 

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