07 (7/20)
『知盛‥‥‥』
相変わらずサラサラと指を滑る、銀。
髪を撫でる私をそのままに、知盛はスヤスヤ眠っている。
『夢の中で眠ってるなんて、変なの。毎回思うけど』
出会った頃はまだ少年だったのに。
再会した去年から‥‥‥一年。
すっかり、がっしりとした大人の肩になった。
私とは時間の流れがずれているのか、急に大人っぽくなる時がある。
いつの間にか、知盛は大人になった。
そして‥‥‥周りには少なくとも、こんなに綺麗な人はいない。
ドキドキする私を余所に、気持ち良さそうに微かに上下する胸。
恒例となった膝枕を拒めない、複雑な私がいる。
『知盛』
いつもなら暖かい気持ちになれる、満月の夢なのに。
‥‥‥胸が重い。
『何を‥‥‥泣く?』
突然の声に見下ろせば、さっきと同じ体勢のまま眼だけを開けていた。
『‥‥‥何でもないよ』
確かに眼裏に籠る熱。
振り切る様にして、慌てて笑う。
私ですら気付かなかった涙の気配。
それに気付いて眼が覚めるなんて‥‥‥敏感な人。
膝の上でぐうたら眠って、夢が明ける。
そんな日だってあるくらいに彼は、一見マイペース。
‥‥‥それでも、決して鈍い訳ではない、なんて思う。
こんな風に時々、強い眼に射抜かれる。
『‥‥‥‥‥‥』
知盛は無言で膝の上から起き上がった。
横顔が憮然としているから、怒らせたのかな。
『あかり』
『えっ‥‥‥っ!?ともっ‥‥』
紡がれた名前と共に視界は塞がれた。
『何を‥!』
『クッ‥‥‥胸でも、貸してやろうかと‥‥思ってな』
その広い胸板を頬に感じる。
抱き締められて、いた。
『‥‥‥私、まだ貸して欲しいなんて言ってないのに』
揺れそうな声だから、溜め息に混ぜて吐き出した。
低く笑う知盛の振動が、胸に当てた頬から伝わってくる。
『‥‥‥知盛』
『なんだ‥?』
眼を閉じる。
鼓動がこんなにも安心出来るなんて。
『‥‥‥知盛は、戦をするの?』
『クッ‥‥何を問うかと思えば‥‥当然だろう‥?』
まるで『息をするの?』と聞かれた時のような、当たり前の答えを笑いながら返してくる。
‥‥‥それに傷付いてしまう、この気持ちは何だろう。
『戦なんでしょ?人を殺すんだよ?命を奪うんだよ?』
『‥‥‥だから何だ』
突然、離された腕。
スッと醒めた眼が、知盛の感情を読めないものにした。
元々、何考えてるか分からない人だけど。
『‥‥‥知盛だって、戦に負けたら死ぬかもしれないんだよ‥‥‥?』
じっと、見据えてくる紫の眼。
不意に滲んだ、私の涙で揺れている。
『‥‥‥クッ‥‥面白い』
愉快そうに歪められた唇。
『俺を殺す程‥‥‥酔わせてくれる存在、か‥‥‥』
心酔した様にうっとりと眼を閉じた。
『死ぬ時に俺は生きている‥‥‥最高の、瞬間だろうな‥』
『知盛っ!!』
気がつけば、知盛の襟を握り締めていた。
【壇ノ浦で入水を遂げる平家の猛将】
知盛は、死の瞬間を恐れてない。
それどころか、待ち望んでいる様に見えた。
‥‥‥何と返していいか分からなくて、苦しい。
胸がいつもと違う鼓動を刻む。
不安を覚えて止まらないリズム。
気付いていたのに。
これが、存在さえ不確かで曖昧な【逢瀬】だって。
何かの気紛れが引き起こした、悪戯のようなものだって。
あなたと私は住む世界が違って
決して、決して
現実には逢えない。
恋なんかしても重なり合う事のない
【夢】
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