05 (5/20)

 






あれから

満月の夜に私達は出会った



花が溢れた、不思議で柔らかな光の

     『二人だけの世界』で

















『‥‥‥また夢、なのよね?』

『ふん、どっちでもいいだろう‥‥‥?』




あれから頻繁に夢を見る。


普段の夢は他愛のないこと。
けれど、それまで夢のない眠りに就いていた私にとって‥‥‥夢を見る事自体が驚きだった。



そして、月に一度だけ見る銀色の夢。




『どっちでもいい?』



思わぬ彼の一言に、傷付いてしまった。


まぁ、こんな言葉を返すのが彼なんだろう。

五度目になる邂逅は彼の‥‥‥知盛の性格を何となくだけど浮き彫りにさせた。



だとしたら、なぜ私は傷付いているのだろうか。
何と言って欲しかったのだろう、私は彼に。



言葉を無くした私を訝しげに見る、知盛。




ああ、何か言わなきゃ。

知盛が不審がるじゃない。



『どっちでもいいさ‥‥‥俺がいて、お前がいる』


あくまでも面倒だと言わんばかりに前髪を掻きあげて、あくびついでに彼は言う。


ごろん、と音を立てて、彼は私の隣に寝そべった。



『知盛』

『此処に来れば、お前がいる‥‥‥』


他愛ない知盛の一言。







胸が破れそうに、苦しくなった。






私の驚きなんか露知らず。

眼を閉じる知盛は、そのまま寝息を立てるんじゃないかって程に気持ちが良さそうだった。



『ちょっと!服が汚れるよ』

『‥‥‥クッ‥‥夢、なんだろう‥‥?』

『確かに夢だけど‥‥‥』



‥‥‥どう言えばいいのか口籠った。



確かにこれは夢の中での出会い。



二人しかいないことも
いつも花が咲き乱れていることも
そして、寒さも暑さも感じない、快適な空間であることも。

夢ならではのこと。
現実になんて有り得ないの。






‥‥‥でも、私は知っている。




それを知らないであろう知盛に、伝えたくなった。


『ただの夢じゃないよ』






‥‥‥あの日

貴方がくれた薔薇の花は、押し花に。

手のひらに書いてくれた、血文字の名前は‥‥‥‥乾くまでそのままだったから。




起きても夢の名残が

残っているの、知らない?




隣に座ったまま、ぼんやりと綺麗な顔を見ていた。





花の褥に寝転んだまま眼を閉じている知盛。

まるで、有名な彫刻家が生涯をかけて作り上げ完成された、一体のオブジェのように綺麗で‥‥‥‥‥‥ドキドキする。



ほんのり風が、銀の髪で遊ぶ。
さらさらと揺れるとほのかに輝いた。



『‥‥‥膝‥‥貸せよ』



じっと見ていたら、視線に気付かれてしまったよう。

ちら、と眼を開けて怠そうに知盛は言った。



『‥‥‥と、知盛!』

『‥煩い‥‥‥寝る』

『‥‥‥何なのこの人?』





‥‥‥人の気も知らないで。



いきなり人の膝に頭を乗せたかと思えば、気持ち良さそうに眼を閉じてしまった。




男の人にこんな風に触れられるの、知盛が初めてなんだけど。



『‥‥‥あかり』



漏れる溜め息を聞き咎めたのか、知盛が眼を閉じたままで名前を呼んできた。


不意打ちな攻撃に、胸が跳ねる。



『なにっ?』

『‥‥‥変わった名だな』

『は?』

『少なくとも、俺の周りには‥‥‥似た名前すらない』

『それを言うなら知盛って名前も、私の周りではいないよ』



負けじと返せば、クッ‥‥‥と鼻で笑われた。

何が言いたいのやら。



頭を乗せられた、太股が熱い。


気温は感じないのに、
体温は感じるのがとても不思議。




『あかり‥‥‥』

『‥‥今度は何?』

『‥‥‥‥‥‥いや』




問いには答えないで、もう一度『あかり』と呼んだ。
そうしながら知盛の手が、私の腰にギュッと回る。




何だか甘えられているみたいで可愛い、なんて思った。
知盛の方が年上なのにね。



『‥‥‥ただの夢だと‥‥思ってないさ』

『‥‥‥‥‥』

『一度だけ‥‥‥目覚めた時、握っていたからな‥‥‥』

『あ、ハンカチ?』



私のお腹にくっついて喋るからこそばゆかった。

くぐもった声がさっきより低く聞こえる。



頬の熱がなぜか引かない私をよそに、知盛はすぅすぅ寝息を立て始めた。


『夢の中でも寝れるんだ‥‥‥』



感心したような、呆れたような。
私の声は苦笑が混じっていた。



お腹に寝息がかかって、くすぐったさに笑いそうになる。


知盛の顔は見えない。




けれどきっと、安らいだ顔をしてるんだろうな。



『変な人』



サラサラ髪の頭を撫でた。

何だか猫みたい。



『‥‥‥‥‥‥知盛』



この眠りを守ってあげたい。


‥‥‥‥‥これが、母性って言うものなのかな。











‥‥‥‥‥‥空と言うべき空間が、一段と明るくなった。



それは、この夢が覚める前触れ。





そろそろ別れる時間だと思うと、なぜか涙がひとつぶ零れた。

またね、って言おうとして、止まる。




腰に回された知盛の手に、無言で力が籠ったから。





『あかり』

『‥‥‥うん』




‥‥‥‥‥このまま力を込めていれば、起きても知盛はいるのかな。

あの時の花みたいに。






そう思ったのが、最後。


















「‥‥‥‥‥‥そんな訳ないよね」


目覚めたら私のベッドで、私は一人だった。

知盛を連れてくるのも
知盛の所に行くのも

無理だって、頭の隅では分かっていたけど。

















「‥‥‥‥‥‥知盛」




夢と同じ想いで、零れた涙。



この気持ちに名前を付けるなら、何と呼ぶのだろう。










また会えば、わかるのかな。





 


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