03 (3/20)

 


あれから六年以上の月日が流れ、私は中学三年生になった。


鮮やかな夢は宝物の様に胸に仕舞い続けて、けれども少しずつ薄れてゆく。






現実は忙しい。
受験生の私は学校と塾で、一日の大半を過ごしていた。










「あかり、私ね有川くんが好きなんだ。協力してくれない?」

「将臣?将臣かぁ‥‥‥難しいよ、あいつ」

「有川くんと小学校からの付き合いなんでしょ?そのよしみで‥‥‥お願い!!」


最近出来た友達の安矢子が、手を合わせて拝んでくる。
私はう〜ん…と唸った。


「もしかしてあかりも有川くんが好きとか?」

「それは全くもってない」


すっぱり即答した私。

どう説明したらいいのだろうか。


将臣と望美の空気を。


安矢子の言う通り、小学四年生の時に引越しをした私は将臣と同じクラスになった。
それ以来、望美と将臣、そしてひとつ下の弟君とは仲良くなったけど‥‥‥

将臣達の『幼馴染み』と言う壁は超えられるべくもない。



「‥‥‥まぁ、好きな人がいるかいないか、位なら聞いとくよ」

「ありがとうあかりっ!!恩に着る!」

「これ以上は動かないから。後は自分でどうにかしてよ」

「分かってる分かってる!ありがとう!!」


どうだか。
私は教室の、高い天井を見上げて溜め息を吐いた。

安矢子は何というか‥‥‥一人では行動出来ない人だから。
何となくつるむけど、好きか問われたら答えに一瞬詰まるのかも知れない。



面倒臭い事を、引き受けてしまった‥‥‥後悔先に立たず、な状況。

その時の私の心境と言えば、肩を竦めるしかないといった所。












学校からの帰り道。
小テストで見事落第点を取った望美は、居残りを言い渡された。


必然的に、将臣と私と二人で帰る。



いつも一緒の望美と将臣と言う組み合わせならまだしも、私と二人では浮くらしい。
校門を出る迄の間にも、ちらほらと視線が突き刺さった。


「将臣はモテるもんね」

「‥‥‥は?突然訳わかんねぇ事言うなよ」


校門を出て暫く歩き、やっと他の生徒のいない道に出て、呟く私の頭を将臣はバシッと軽く叩いた。


「皆あんたを見てたでしょ。女子に睨まれていたからさ、私」

「はぁ?違うだろ」

「何が」


分かってねえなぁ、コイツ‥‥‥と髪を掻き揚げながら将臣は言い、まっすぐに私を見た。
ぴっ、と人差し指で私の鼻を突く。


「モテんのはお前。むしろ俺が睨まれてんじゃねぇの?」

「はぁ?」

「んな顔すんなって!ま、ほっとけよ。美男美女カップルって思えばいいじゃねぇか」

「‥‥‥なんで将臣とカップルにならなきゃなんないわけ」

「ははっ。それもそうか!」


じろっと睨む私の隣。
笑う将臣の声が不自然な程明るくて、私は首を傾げていた。



「そうそう。将臣って好きな人いるの?」

「‥‥‥はぁぁ?」

「って聞けと頼まれてるから」

「なんだよ、そっちか。
‥‥‥いるぜ、好きなやつ」


言いながらこっちをじっと見て来たけれど、この時の私は鈍過ぎて分からなかった

後で思えば、この時に気付かなかった自分が悔やまれてならない。




彼の中で芽生え始めた仄かな想いの、向かう先を。






この時、気付いていれば。




 

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