02 (2/20)




ん‥‥?


身体が軽い?





先程まで体を苛んでいた、熱の怠さが感じられない。
軽い手足、そして頭痛のない頭。


ぱっちりと眼を開けるとそこには紅い花の広がる不思議な場所だった。







『‥‥‥お前、こんな所で何をしている?』

『へ?あなたはだれ?』



何故か私は花畑の中心に寝転んでいた。

隣には、私の顔を覗き込む少しだけ年上の少年。
12〜13歳位だろうか。
銀色髪がきらきら光に乱反射して見えて、
顔がとても綺麗なお兄ちゃんだな、と思った。










これが私達の出会いだった。












『‥‥‥お前こそ、誰だ?』

『あのね、人に名のるときはまず自分から、ってお母さんがいつもいってるよ』

『それなら、お前が名乗るべきだろう?』

『へ?あれ?ほんとだー』




けらけら笑う私にその『お兄ちゃん』は無表情で手を差し延べた。


迷う事なく掴めば唇がニヤッと吊り上がる。
そして手に力をかけて引っ張って起こして、座らせてくれた。


銀色の髪がふわふわ風にそよぐ。

菫色の眼が鋭く光って。

子供の物とは思えないその眼光に、一瞬だけ怯んだ。




『‥‥‥知盛』

『とももり、くん?‥‥‥私は、あかり』

『‥‥‥あかり、か』

『うん!よろしくね、とももりくん!』

『ふん‥‥‥変な餓鬼だな』



小さく笑う彼の眼がさっきとは打って変わって優しくなる。
私は笑い返しながらただ見惚れていた。






私は紅い花を摘み、ぶきっちょながらも母に教わった花冠を編む。

『とももりくん』は隣にただ座り、取り止めない私の話を聞いていた。


母のこと、父のこと、寂しいこと‥‥‥


時々怠そうに相槌を打ちながら、彼は耳を傾けてくれた。



沢山の色合いの、花の匂いが濃厚なこの場所で。

花以外には何一つないことが、余程心細かったのだろう。
気が付けば、私は『とももりくん』に身を寄せるようにくっついて座っていた。


気付いているだろうに何も言わない彼の優しさに、甘えるように。









どれくらい話し込んでいたのだろう。

いつしか私の心はスッキリ軽くなり、その頃に花冠は出来上がった。




‥‥‥空の端が、眩く輝いている。






何となく、時間切れだと、思った。







『ありがとう、とももりくん』

『‥‥‥‥‥‥』




出来上がった冠を、彼の頭上に乗せた。


『花の王子様みたいだね』

『‥‥‥意味がわからんが』




気に入らないのか仏頂面の彼。
似合うかはともかく、綺麗な顔立ちの彼は正に王子様のようで‥‥‥



いつかまた、会いたいな。



何の気もなしに、

彼の頬にキスをした。




母が私にしてくれるように。

感謝と親愛を込めて。




『ばいばい』











反転する意識















『あかりちゃん、ただいま‥‥‥気分はどう?』

『‥‥‥うん。すっごくいいよ』


熱はすっかり下がっていて、母が買って来たゼリーを三つも平らげた。



熱と共にもやもやした物も消えていた。
それが誰のお陰かなんて、分かりきっている。




でも、

‥‥‥なんだ、夢だったのか。


がっかりしたのを覚えている。




また、会いたい、と‥‥‥
銀色の髪の彼に。


 



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