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初めて出会ったのは、いつの事だったのか。
多分、小学生の低学年だったから8歳か9歳の頃だったと思う。
あの日私は風邪をこじらせ高熱でうなされていて、うっすらした意識の中で子供心に、寂しかった事を覚えている。
父は私が生まれる前に病死してしまい、母子二人慎ましく生きていた私達。
母は夜の市場に野菜を詰める仕事をしている為、いつも眠る時は独り。
それを寂しいと思う事はあっても、溢れる愛情をいつも受けているから辛くはなかった。
貧しくも幸せで、私は母の背中を一抹の寂しさと沢山の誇らしさを胸にいつも見送ってきた。
だけど。
『あかりちゃん、本当にダメだって思ったらいつでも会社に電話してね?‥‥‥仕事、休めなくてごめんね』
『うん、だいじょうぶだよ。ねてるからね?』
母が泣きそうだったから、引き止められず‥‥‥熱の中で笑う私。
きっと、この歳で我慢をする娘を不憫に思ってくれたのだろう。
母は私の手を握り締めて、額に優しくキスをくれた。
『仕事が終わったら飛んで帰ってくるね。ゼリーも買って来てあげる』
『うん!』
好物のゼリーは、母のせめてもの贖罪。
私の笑顔にホッとして、仕事用の擦り切れた鞄を持つ母の姿を、布団の中から見送った。
『行ってきます』
『きをつけてね』
バタン‥‥‥と閉まるドアの音。
‥‥‥お母さん、お母さん。
本当はね、側にいて欲しかったの。
『お母さん‥‥‥』
涙がひとしずく。
そして、意識は
ゆめ の なかに
銀の夢がさめても
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