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さよならさえ言わせてもらえなかった。
「あかり−、何見てるの?」
‥‥また、ぼんやりとしていたらしい。
テストが終わり、緊張感が解れた教室。
後ろから抱き着いてきた親友のその声も、私以外に誰も聞いていないだろう。
「クリスマス特集?」
「ああ‥‥‥みたいだね」
「みたいって。さっきから熱心に読んでたのに」
昨日たまたま寄った本屋でたまたま手に取った雑誌のページには、間近に迫るイベントの特集を組んでいた。
「クリスマスはどうでもいいんだけど。これ見てた」
「あ、美味しそうなケーキ!三色ベリーのショート、あかり好きだもんね」
「望美も好きでしょ。今度食べに行かない?」
「行きたい!」
誤魔化す為に咄嗟に指差した写真。
その下に書かれた住所を見れば、学校からそんなに遠くない。
「あ、そうそう!クリスマスで思い出した!今年もクリスマスパーティ、うちでやるからあかりも来てね」
昨日ツリーの飾り付けをしたと胸を張る望美が、いつもよりずっと幼く見えて。
思わず吹き出してしまった。
「‥‥‥良かった、あかりが元気になって」
後ろから肩に回る柔らかな腕。
サラサラの髪。
独り言のような優しい言葉。
きっと酷く心配かけていたんだろう。
ありがとう、も。
ごめんね、も。
胸が詰って、どちらの言葉も返せなかった。
ようやくテスト期間が終わった開放感もあり、昨日までとは違う放課後の空気。
突然「塩ラーメン食べたいね」とテンションが上がりだした親友様に付き合って、有川兄弟と一緒にラーメン家に御供する事となった。
ちなみに断れば彼女だけでなく、望美命の譲まで煩かったりする。
「あかり、ほら」
張り切っている二人の後ろを歩いていると、隣の人物が私の通学鞄をさらった。
咄嗟の行動に一瞬言葉を失くす。
「‥‥将臣?自分で持つよ」
「いいんだよ。あいつのワガママに付き合わせてるし、そのワビだ」
変なの。
望美は親友で、私は自分の意思でついて行ってるのに。
将臣がそんな事までしなくてもいい。
相変わらず責任感というか、保護者意識が強いというか。
そう思うけれど、流石に口にするのは気が引けた。
代わりに眼を見て「ありがとう」と笑う。
「‥‥ま、俺が持ちたいだけだけどな」
将臣はどこかぎこちなく笑った。
「何か言った?」
「いや、それよりお前は大丈夫なのか?」
「私はいいよ。この後用事なかったし、お昼ご飯用意してないから」
「そっか」
家に帰っても一人。
流石に昼食まで自炊は面倒なので、お弁当でも買って済ませる予定だったから。
それよりもあれ以来、二人で話す機会なんて無かった。
具合が悪くなった私を背負ってくれた時は望美も一緒にいたし。
二人の間を漂う、罪悪感に似たぎこちない空気。
『好きな女が他を見てるのは、結構キツくてさ』
‥‥‥あの言葉、どういう意味なんだろう。
そう聞いたら困らせてしまう?
私の何処を見てくれたのか。
心も魂も置き去りにしてしまった。
現実の中でに生きている私は『抜け殻』も同然なのに。
「‥‥‥俺がいるから、あかり」
ねえ、将臣。
聞こえないフリしているけれど、本当は聞こえている。
さっきの言葉も、今の暖かな独り言も。
ぐっとお腹に力を入れなければ、泣きそうだ。
そして───翌日から、彼らは揃って登校しなくなった。
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