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あなたと私の繋がりは


あまりにも、儚くて













記憶の片隅に残っている「それ」を見たのは随分久し振りだった。




緊張感のない望美と何とか頑張り無事に高校入学して、季節が一巡りした。
二度目の春。
屋上はぽかぽか暖かく、満腹感と麗らかな陽気が眠りを誘う。



「あかり、将臣くん見なかった?」

「見てないけど。遅いと思ってたら将臣を探してたの?」

「あー、じゃぁアレはやっぱり将臣くんだったんだ」



お弁当をダッシュで食べた後、購買でジュースを買ってくると屋上を出てから結構経った気がするけど。

キラキラと顔を輝かせ買ったばかりのパックを握り締める望美。

今にも潰れて中身が零れそうで可哀相な紙パックを見て、眠気が吹き飛んだ。



「聞いて!将臣くん裏庭で告白されてたんだよー!」

「そうなの。そんなことより潰れる‥っ」

「あかりは無関心だなー!あの子一年生かなっ?ちっちゃくて可愛かっ‥‥‥わっ!?」



警告しようとしたけれど、遅く。
握りつぶされたパックからイチゴミルクが零れる。

素晴らしい圧力に笑いながらティッシュで拭いてあげた。



「ご、ごめんね!ハンカチあるから後は自分で拭くよ」



慌てふためいた望美が、ポケットに入れた手を出した。

丁寧に畳まれた、色褪せたモノと一緒に。



「あっ‥‥‥それ」

「あかり、覚えてくれてるんだね!」



嬉しそうな望美とは対照的に、俯くしかなかった。




忘れられないよ。


可愛い柄だから、ってお揃いで買ったのも。

それが今、手元にない理由も。





「‥‥忘れてなんてないんだけど‥‥ごめん、あげちゃったの。指を怪我したから‥」

「あ、謝らなくていいのに!」



再会した夢の中。

彼の指から零れた紅い雫と、
彼の指を傷つけた紅い花を貰った、あの日。


その代わりに、彼の手当てにと押し付けたから。

あのハンカチが今も保管されているかは、分からないけれど。



「‥‥怪我した人って、あかりの好きな人?」



優しい望美の声。



「‥‥‥うん」

「じゃあ今頃は大切にしてくれてるよ。付き合ってるんでしょ?」



付き合う?

‥‥‥ああ、そうか。

望美の、と言うよりもこの世界の考え方だったら、あれは「付き合っている」になる。


でも。



「そんなんじゃないよ。片想いみたいなものだから」

「ええっ?あかりに想われてイヤな人はいないと思うけどなぁ」



何も言えないでいる私なのに、黙って待ってくれているの知ってるよ。
でも、説明できないの。



言葉に詰まる私を見て一瞬だけ眼を細めた後、望美のは口を開く。



「いつか、会ってみたいなぁ。あかりがずっと想ってる人」

「‥‥‥うん」



不意に泣きそうになった。


ごめんね、望美。

その願いは、一生叶うことがないんだ。















「今から帰るの?」

「まぁな。望美は一緒じゃねぇのか?」

「譲と買い物の約束してるから待つんだって。私も誘われたけど邪魔しちゃ悪いでしょ」

「はは、確かに」



望美のお誘いを断わりながら教室を出た私は、靴箱で将臣を捕まえた。

気を利かせてあげたんだから明日でも譲に奢らせてやろう、なんて思う。


駅までの道を歩きながら、なんだか懐かしさで胸が溢れた。



「二人で帰るの、中学以来だね」

「そうか?細かい事は忘れた」



将臣が小さく笑う。
それから駅が見えるまで、望美と譲のことや些細な話をした。


あの頃はたまに望美が補習で残されて、二人で帰ることがあったけど。
高校に入ってから将臣との間に微妙な距離を感じてからは、帰る事なんてなくなったから、今は普通に嬉しい。



「‥‥最近ね、将臣が素っ気なかったからちょっと寂しかった」



それは微妙な、というか微かに感じる壁のようなもの。
話しかける度に、将臣が何処か強張っている気がして。



「‥‥ちょっと寂しい、だけか」



数歩後ろで止まる、足音。
振り返れば恐いほど真剣な顔がそこにあった。



「あかり。お前、一体どこ見てんだよ?」

「‥‥‥え?」

「お前の心っつーか魂っつーか、ここに無い気がずっとしてた」




───その言葉に射抜かれて動けなくなる。

将臣は鋭い。鋭過ぎる。
どうして、分かってしまったんだろう。



「好きな女が他を見てんのは、結構キツくてさ。避けて悪かったな」

「‥‥っ!?将臣、私っ」

「んな顔すんなって。困らせたかったわけじゃねぇんだ」



将臣が笑う。
今まで気付かなかった気持ちに、それに笑い返せなかった。






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