Find the one that is (4/4)







「‥‥バチカルで待っている筈の君が居なくて、気が狂いそうだったよ」


涙で前が見えない。

そんな私の肩をそっと掴み、くるりと体の向きを変えられ正面に向き合ったガイの、熱に包まれた。


「実際、ルークや奥方様の前で随分取り乱してしまった。俺とした事が、情けないな」


叶わないのに切望した、ガイの熱。


「‥ガイは情けなくない。誰だってそうすると思う‥‥‥でも」

「でも、何だい?」

「‥‥どうして、そんなに知ってるの‥?」


アレスト子爵の事をどうして、そこまで調べられたのか。

私の問いに、彼は切なく笑った。



「君を取り戻す為なら何でもするさ。マルクト軍に伝手があるから、それを利用させて貰ったよ」

「そう‥‥‥」



それが本当で、真実だとしても。



「‥だからと言って、今更どうする事も出来ないよ」

「は‥‥、何を」

「ガイの言った事は嘘じゃないと思う。信じる。でも、それでも、結婚を白紙に出来ない」

「ユイ」



相手は貴族で私は一般人。

この身分の差に、断わる理由など存在させてくれないだろう。


断われば、きっと。



「‥‥子爵が言葉通りの酷い人なら、私に断わる権利なんて持たせてくれない」



もしかしたら、矛先は将来を誓い合っていたガイに向かうかも知れなくて。
そしてそれを止める力を、私は持っていない。

だったら、何も知らない振りをするしかないんじゃないか。

何も知らない、無知な花嫁として‥‥。






そうすれば、ガイを守れる。







「‥‥ジェイドの旦那を真似るのは癪だが。君も結構、バカなんだな」

「は‥‥バ、バカって‥?」


今のは空耳だろうか?
とても彼らしくない台詞を、溜め息と共に聞いた気がする。


「ああ。ユイはバカだ」

「な、何を言ってるの!?」


思いも寄らない不意打ちに、頭に血が上る。


「此処まで来たら、そうじゃないだろう?」


顔の脇でドアを押さえていた肘は離れ、ガイの大きな手が私の髪に触れた。
髪から、ゆっくりと頬に滑る‥‥グローブ越しの感触。



「俺が聞きたいのは、君の本当の気持ちだけだ」

「私‥‥」



過去を彷彿とさせるような苦笑まじりの声は、優しくて。

感情が抑えきれなくなるのを、とっくに見抜かれていたのではないかと思った。



「ユイ」

「‥‥逃げてごめんなさい」

「それから?」

「それから‥‥」



鋭かったガイの眼が優しく暖かく緩むのを、再び滲む視界に捉えた。

やっぱり。彼はもう知っている。
そして許してくれている、全て。



「ガイが‥‥好き」


二度と口に出来ないと思っていた想い。
両親が亡くなった日も、結婚を決めた日も、心に残る姿を支えにしてきたほど。



「却下」

「え?」

「それだけじゃ、俺は満足できない」

「それだけ‥って」

「大変だったなぁ。ルークや旦那達に頼んで、君を街中探したんだ」

「‥!!ルーク様のお手を煩わせたの!?」

「何せ子爵は君の居所だけは隠し通していたからね。‥‥そうそう、ナタリア王女も手伝ってくれたな」

「ナ、ナタリア殿下まで!?」

「ああ。皆、必死で探してくれたよ。俺の大切な人だって知ってるから」


何と畏れ多い事を‥!


驚愕と恐縮でひたすら身を縮ませる心地の私に、ガイは実に爽やかに笑った。
女の子なら誰でもときめく様な、ガイらしい笑顔。



「俺は昔からユイだけを愛している。君は?」



ほら、と満面の笑みで次の言葉を強制させるガイに、私は笑うしかなくなる。


もう、降参。



「愛しています‥‥‥ずっと」



涙腺は既に崩壊している。
たった一言。
それを囁くことができた今、何も怖くない。

ガイさえ傍に居てくれたら。



「‥‥‥良かった」



ぐっと引き寄せられて、ガイの服に視界が閉ざされる。
頬を撫でるさらさらの金色。

顔を私の肩に埋めたガイの表情は見えないけれど、息が出来ない程の強さで抱き締められた、その腕が僅かに震えていて──。




ガイの言う通り、私はバカだ。

こんなに愛しい熱を、諦められるつもりだったなんて。

ほら、重なった唇はこんなにも───こんなにも、熱い。
















「さて、俺のお姫様の気が変わらない内に、挙式の準備をしようか」


お互い抱き合うだけでは足りなくて。
狂おしい程の熱を吐き出した後、余韻の残る乱れたベッドに身を起こしたガイがにっこりと笑う。


「え‥っ!?でも、私はまだ子爵の」

「ああ、そうだ。言い忘れていたが、アレスト子爵なら昨日マルクト軍に拘留されたよ」

「拘留って‥‥」

「罪状なら五指に余る。握り潰していた証拠を突き出して、ピオニー陛下の勅命を頂いたんだ。元々陛下も証拠を集めていたから、話は楽だったさ」


流石は賢帝と言われるだけの御方ではあるな。

言いながら私の髪に潜らせるその指の心地好さに、眼を瞑りながら私は尋ねた。


「‥‥じゃあ、私は‥?婚約だけなら無罪放免になるのかな‥」

「ユイ・クルスの身柄はガルディオス伯爵が預かる事に決定した」

「ガルディ‥‥伯爵?」



伯爵、というなら子爵よりも爵位が上だ。
私はその伯爵の保護下に置かれるという。
万が一子爵が訴えたとしても伯爵が頷かない限り私の身は安全で、恐らくそれを配慮してくれたんだろう。

でも‥‥そんな名前の貴族がいただろうか?

マルクト帝国に来て日が浅い私が、全ての貴族を知っている訳はない。けれど‥‥。



「ガイラルディア・ガラン・ガルディオス。俺の真実の名だ」



首を傾げる私が心の準備をする暇も与えずに、ガイが口を開いた。



「‥‥‥」

「俺の家はマルクト帝国で古くから存在している伯爵家だ。まぁ、ホド戦争で領地は失ったが」

「‥‥‥‥」

「色々と事情があってファブレ侯爵家で使用人をしていたんだが、先日ピオニー陛下から正式に爵位を頂いたんでね。今の俺は、マルクトの───おわっ!」

「バカ!!」



思わず手元の枕を投げれば、見事に顔に命中した。

頭の中が真っ白。ぷつん、と音を立てて何かが切れた。



「しんっじられない!今まで黙ってたなんて!!」

「お、おお落ち着けユイ!悪かった!これには事情があってだな──イテッ!」



マルクトの貴族がキムラスカの公爵に仕えていたのだ。
恋人にすら黙っていなきゃならない事情があったのは、仕方ない。

けれど、悔しくて。

黙っていた私のことを心配してるくせに、今までずっとガイの事情を心配させてくれなかった薄情な男に。



「ガイなんて、ガイなんて‥‥‥ただのスケベで女好きな伯爵なんだ!」

「いや、ちょっと、待ってくれ!確かに俺はスケベだが、ユイ以外に発情しない!」

「──っ!!真顔で言わないでこのド変態っ!!」

「事実だから仕方ないさ」


あくまでも真面目に叫び返した後、ガイの腕が伸びてきて。
遮るもののない肌に包まれる喜びにまた眼が潤んだ。







あなただけを、見つめていたかった。

切なる願いが実現するのは、それからすぐのこと。



一生、あなただけを───









Find the one that is:本当のあなたを見つける

最後はやっぱりスケベなガイさん希望。
長くなったのはたんまり籠もった愛所以です、すみません。

ガイの声がノリスケおじさんだと知った時の衝撃は忘れられません。でも、それが益々愛しい(笑)




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