Find the one that is (1/4)








あなただけを、見つめていたかったけれど。










Find the one that is











───あいつの面倒も見なくちゃいけないんでね。行ってくる。




そう言って、あなたは世界を守る為の旅に出た。



───ユイは此処で、待っていてくれ。旅が終わったら‥‥‥。




その続きはとうとう聞けぬまま。


待っていたかった。
いつまでも待っている、つもりだった。




‥‥‥少なくとも。絶望に打ちのめされたあの日までは、未来に何一つの曇りもなく。
一生でも私はあなたを想っていられると信じていた。


暖かなあなたの輝きと、同じ位に光溢れる国で。



















人込みに紛れ消えるほんの一瞬前、それは日の光を受けてきらりと輝いた。
不意に惹き寄せられた眼がそれを認めた瞬間、大きく見開かれる。


「ど‥‥して‥」


思わず零れた第一声は掠れたもの。


忘れる筈もない、太陽の色。
それだけなら他人の空似とも言えたのに。

そう言えば彼はいつも、気配に敏感だった。

だからなのだろう。
私の驚く視線に気付いたらしく、振り返った彼と眼が合って。

瞬間、澄んだ空と同じブルーの眼が、驚きに見開かれた。


「‥‥ユイ?」


この声を、聞き間違える筈がない。
何度も夢に見た。


「ユイっ!?」


気が付けば、踵を返して逃げ出していた。






頭の中で、今見た光景を否定する言葉だけがぐるぐると巡る。

信じられない、有り得ない。
此処なら──グランコクマなら、大丈夫だと思ったのに。
敵国の首都にまさか来る事はないだろうと、二度と会うことはないと。



「待つんだ!ユイ!」


走って、走って、走って。
逃げている筈なのに、繰り返し背中にかけられる声はあっという間に近付く。

掴まるのは時間の問題か。
そう思ったと同時、足は動きを止めた。否、止められた。


「相変わらず‥君は、足が速いな」


両手ごと、背後から肩と腰に回された腕。




私を捕まえたのは、ガイ・セシル───





「‥‥どうして、ここに‥?」

「そんな事はどうでもいい。話を聞かせて貰おうか」


低い声。


怖いくらいに真剣で今にも飛び掛りそうな怒りを宿す、初めて聞く声音。

それは彼が傷付いているからだ‥‥‥なんて事実、解らない程に愚かな女になれたら楽なんだろう。
私のせいじゃないと、知らぬ振りを出来たら。


「分かった‥‥‥でもここじゃ、気が散って出来ない」

「ああ、場所を移そう」

「‥‥」


今更、話をするのが怖い。
そう言いたいのに強く見据えてくるブルーの前で、口に出来なかった。


「皆、悪いが明日の朝に合流してもいいか?宮殿に行けそうもない」

「いいわ。陛下と大佐には後で私達から話をしておくわ。気にしないで」

「すまないな、ティア」


ガイが問い掛けたのは、さっきから気遣わしげな視線を投げていた集団。
答えた茶髪の大人びた人は、ティアという名だったか。
ガイが再び旅に出る前に一度だけ、屋敷に訪れたことがあったから覚えている。



「‥‥あ、そうだ!イオン。宿の部屋、まだ引き払ってなかったよな?」

「ええルーク。買い物も残っているので、まだ。僕達は宮殿に泊めて貰いましょう。そこを使って下さい」

「だってさ、ガイ」

「ああ、ありがとう」


ティアと一緒に屋敷を訪れた、イオンと呼ばれる緑の髪を持つ少年。
その隣、男性にしては若干高めのその声に引っ掛かりを覚えた。
また眼を見張る。


「ルーク様‥‥?」


短くなっていたから、本人だと気付かなかった。
あんなに綺麗だった赤い長髪、大好きだったのに。


「久しぶりだな。‥‥ユイ、ガイも俺も心配したんだ。バチカルに戻ったらユイが居なかったからさ」

「‥‥申し訳、ありません」


そこに居たのは、少し前まで仕えていた屋敷の主。
光の国バチカルの王位継承権を持つ少年だった。


「いいよ、ユイには理由があるんだよな。だから‥いつでも屋敷に戻ってくればいい。待ってるから、父上も母上も、俺も」


私の知ってる主は、こんな風に切なく笑う人じゃなかった。

もっと自信に満ちて、もっと傲慢で、我が儘で。
でも時々照れた優しさを持っていたけれど‥。

少なくとも、何も聞かずに、私を泣かせるような言葉を吐く人じゃなかった。



突然始まった旅の中で、変わったのだ。
みんな。そう呼びかけられる「仲間」が、私には入り込めない絆で結ばれた仲間が出来たんだね。


「一緒に来てくれるよな、ユイ」


逃げられない強さで引かれる腕。


「‥‥わかった」


ねぇ、変わったんだよ。

ルーク様もあなたも―――それから、私も。




ホテル迄の僅かな道程を観念して付いて行く。
握られた手首が、枷の様に痛くて、なのに熱が愛しい。

心は折れそうで、今すぐ逃げ出したかった。











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