花とちょうちょ (1/1)




グランコクマに滞在中、ピオニー・ウパラ・マルクト9世陛下に挨拶するため宮殿に行った折に、気さくな国王からプレゼントを戴いた。

私達と一緒に旅をしている仲間の一人が、国王陛下の幼馴染だったりするからで。
「あの捻くれジェイドに付き合って疲れただろう?」
と、豪快に笑う陛下って‥‥。



それにこれ、プレゼント‥‥と言っていいのかな。
「陛下の趣味にも困ったものですねぇ」
ってジェイドが言っていたから、趣味の押し付けかも。

それは置いといて、折角なので貰った服を着てみる事にした。


うん、可愛い。
それに懐かしい──セーラー服。
上は眩しい白、リボンとスカートはマルクト軍の制服と同じブルー。

ハイソックスと黒のローファーまでちゃんと揃ってるあたり、流石は陛下だなんて思う。



それにしても、何故この世界にセーラー服があるんだろうか。

‥‥いやいや聞かないでおこう。
知らないほうがいい事だって世の中にはあるよね。

そう決め付け、着替えが終わった私は皆が待っている宿の一室へと向かった。







ノックして戸を開けると、一名を除いたメンバーが昼食を摂っていた。


「まぁ!お似合いですわよ」

「きゃわ〜んっ、ユイ可愛い!」

「ほ、ほんと?」


部屋から一歩出た私に、ナタリアとアニスがにこにこ笑ってくれる。
隣でティアが「可愛い‥‥」って頬を赤らめながら呟いたのが聞こえて、そんなティアこそ可愛くて抱き締めたくなって困った。

この服、きっとナタリア達の方が似合いそう。
だって三人とも、私が束になっても敵わないくらい、綺麗で可愛いんだから。

‥なんてね。

卑屈になる事はとっくの前にやめている。
私は私でいい。
そのままが一番素敵だ。と言ってくれた人がいる。

普段は笑顔の裏で何考えているか分からないし、意地悪だし、厭味な部分もあるけれど。

その言葉と優しい眼差しを思い出すだけで、にやけてしまいそう。


「良くお似合いですよ、ユイ」

「‥‥ありがとう」


イオンがふわりと笑う。
うん、イオンが着るともうすっごく可愛いんだろうな。
‥‥ほんと、男の子なのがつくづく惜しい。
この私が迂闊に触れない、天使のような空気を纏わせるなんて羨ましすぎる。


「可愛いよ。君は何を着ても綺麗だが、今日は一段と清楚な部分が引き出されていいね」

「やだ‥‥‥が、ガイってば」


彼は至って素だ。
本人曰く、本気でそう思ってるだけなんだと。

だからこそ言われた女の子も本気でときめくんだよ。

煌く金の髪とブルーの瞳、端正な顔立ちはまさに童話で出てきそうな「白馬に乗った王子様」そのもの。
そんなガイに(本人は無自覚だけど)甘い言葉を囁かれた私も、例外じゃなくドキっとする。


‥‥いやいやいやいや!浮気じゃないって!


心の中で慌てて首を振り、「彼」がこの場に居合わせなかった事を真剣に感謝した。


「‥‥ふーん、馬子にも衣装だな」

「え、ルークが珍しく褒めてくれてる!明日は嵐?」

「はぁっ!?人が折角褒めてやってんのに何だよ!」

「あははー、嘘だって!ありがとう」


拗ねたルークも可愛い。
髪の色と同じくらい真っ赤になってる。

「くそっ」と言いながら顔を背けちゃって、おっきな子供みたいで可愛くて可愛くて、思わずぎゅうっと抱き締めた。


「っ!?なな何すんだよユイ!!」

「んふふー、ルークが可愛いからいけないんだよー」


あ、本気でうろたえてる。


「はは、ユイもその辺にしてやってくれ。そろそろ旦那が帰ってくるしな」

「あー!ガイってば妬いてるよぅユイ♪」

「なっ!?違うって俺はだなアニス」

「じゃぁガイも抱っこしようか」

「ひぃぃぃぃっ!!や、やめろぉぉぉおおおぉ!!」


アニスと二人で図に乗ってガイに抱きつこうとしたら、震えながら後退られた。
それも凄まじいダッシュ。
女性恐怖症なのを知っててからかったんだけど、ちょっとやりすぎたかな。


「そっかぁ、ガイは女嫌いだったもんね」

「ち、ちちち違う!女性は好きだ!」

「アニスアニス、ガイは女嫌いじゃないって。だってスケベ大王だもん」

「ユイの仰る通りですわ。先日のスパでユイの水着姿をご覧になって鼻の下を伸ばしてらしたもの」


椅子から立ち上がったナタリアが、優雅な仕草で頬に掛かる髪を払う。
何気ない仕草も彼女がすると気品を感じる。
‥‥言っている事は優雅とはかけ離れたものだけど。


「そう言えば‥‥そうね。ガイは女の子の水着を褒めてくれたけど、特にユイには優しかった気がするわ」

「だよねー!ティア」


あーあ。ガイってば赤くなったり青くなったり忙しそう。

女性陣に囲まれてしどろもどろに何事か言いながら、震える手で私を指差していた。


「ユイ!」

「何?スケベで最低なんて思ってないよ?」

「だから誤解だ……じゃない、後ろ」


ん?‥‥私の後ろ?


「おやおや、随分楽しそうですねぇ」

「‥‥へ?」


脇の下に触れられた、と思ったら私の体は宙に浮いた。
何かから引き離された感覚、腕がスースーする。
あれ?と思ったけど、そう言えばルークに抱き付いたまんまだったから、温もりが消えたんだ。


「違うんだジェ、ジェイド!!」

「良かったですねぇ‥‥ルーク」

「いや待て俺は何もしてねぇっつーの!ユイが勝手に俺を」

「おや言い訳ですか。見苦しいですね」

「ちっがーう!」


正面には顔面真っ青なルーク。

背後で私の脇をがっちりホールドしているのは、腹の中が真っ黒なお方。


はらりとジェイドの艶やかな長い髪が私の頬を撫でる。


マルクト帝国軍第三師団師団長、階級は大佐。

しかもマルクト帝国の皇帝ピオニー様の懐刀でご友人。

そんな煌々しい肩書きのジェイド・カーティスは、初めて会った時から私の想い人でもある。


「ユイもユイですよー?いくらルークが可愛いからといって無闇に抱きつかない様に、いつも言ってるじゃないですか」

「か、可愛いって言うな!」


ご、ごめんルーク。
「助けてくれ!」って必死な眼で私に縋ってくるあなたも、やっぱり抱きしめたいくらい可愛、


「ユイー?」

「冗談ですすみません許してくださいほんの出来心だったんです」

「そう言えば、女性嫌いの言葉に随分と嬉しそうでしたね?」


‥‥いつから見てたんだ。

ジェイドのことだし、多分最初からだろうけど。


「いえいえ滅相もございませんっ」

「‥‥俺は女性恐怖症だと知ってて間違えるか」


こ、怖い。
これはちょっと本気で不機嫌なのかもしれない。
ジェイドを怒らせちゃった、かな。

ちらっと肩越しに振り返れば、相変わらず感情の分からない笑顔。

雪の様に綺麗な肌とルビーみたいに紅い瞳。
三十代なのが信じられないほど、綺麗な顔が私を捕らえて離さない。


「‥‥ごめんなさい」

「全く‥貴女は」


こんな至近距離で見つめられたら誰だって、陥落してしまうんだよ。


「さて、出発は昼からです。ユイは私の部屋に来て下さいね」

「え?え、でもまだ昼ご飯が‥‥」

「昼食でしたら部屋で摂ればいいじゃないですかー。私手ずから食べさせてあげましょう」


問答無用、とばかりに腕を引きずるずると扉へ引き摺っていく。
相手は軍人、いや無敵のジェイド様、小娘の力なんかが勝てるはずもなく。

ああ、部屋に入った後が怖い。


「はわーっ、大佐ってば昼間っから逢引き?ダイタン☆」

「はっはっは。露骨ですねぇアニス、そこは察して頂かないと」

「え、待ってアニス!逢引って言うかこれ連行じゃ‥っ!いた!痛いジェイド!」

「まぁ‥‥っ!愛ですわね!素敵ですわ!」

「ユイ…‥‥頑張って」

「ナタリア!ティア!なんか違うってばー!!」


けらけら笑うアニス、両手を前に組み瞳を潤ませるナタリア、別の意味で両手を合わせ黙祷するティア、あからさまにホッとしているガイ、相変わらずにっこり微笑ましく笑うイオン、好物の草に夢中なミュウ、そして魂の抜けた状態のルーク。

彼らから隔離するように、ばたんと部屋の扉が閉じられた。





「私の居ない所で浮気する悪い子には、たっぷり言い聞かせませんと。ねぇ?」

「‥‥うっ。だってジェイドの前だとルーク可愛がれないもん‥‥」


抵抗虚しく最期、いや最後にはジェイドに担ぎ上げられて、一段ずつ階段を上る靴の音を聞いて。

その音が昔聴いた売られてゆく可哀相な子牛の歌の様に哀れに響いて、なんだか切ない気分だった。


「当然です。貴女は私だけの恋人なのですから」


頬にキスされて、囁かれて。
それだけでバカみたいにときめいちゃう私って、現金なのかもしれない。










アビス好きです。
誰が好きって皆大好き!
勢いだけで書いたカオスな話。息抜きです。






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