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『今日は、デビュー当時から変わらない人気を維持している桜井恋さんにお越し頂きました』



番組オープニングのメロディ。
そして、独特の髪型の司会者が聞き取りやすい早口で紹介する。
超長寿を誇るトーク番組が始まった。


僕がソファに座りなおす。
と同時に、タイマー録画が始まる機械の音。
ちょっと音量を下げたリモコンを置くのも忘れ、手に持ったまま見入り始めた。




画面の中では何度見ても飽きない君が、自然な笑顔で会釈する。

今やその映画の宣伝で、テレビや新聞、それから雑誌にも彼女の名前は頻繁に挙がっている。



『近日公開の映画では、主人公の恋人役を熱演されていると伺っております。桜井さんにとって三度目の映画で初主演。ロケの前日は緊張して眠れなかったそうですが、ご心境はどうでしたか?』

『あはは。前日は眠れなかったんですけど、ロケ当日は必死でした。なりふり構っていられる状態じゃなくて』

『それが上手く緊張を解したのでしょうね』

『はい』



ふんわり、癒し系、可愛い。



僕の贔屓目でなくても、同じ事を思う人は多い筈。

現に天真先輩は彼女の大ファンで

「どうにかして桜井恋と付き合いたいよなー」

と言っては蘭やあかねちゃんに適当にあしらわれていた。

最近は女の子のファンも増えたって本人は喜んでいたけど、やっぱりファンの大半は男だ。






でも、彼女のこの笑顔が実はかなり緊張しているんだよ、とか。
それはアイドル時代に積み上げてきた「仕事用スマイル」だ、とか。
知っている人間は数えるほどしかいない。
‥僕を含めて。


その事実が、僕には愛しいんだ。



『このお話は主人公のタクが、桜井さん演じるユウと───』



プツン

電源の音がして、同時にカラフルだった画面が一気に真っ暗に変わった。

当然ながらリモコンのスイッチを押したのは、僕、じゃなくて。



「もうっ!録画してるんでしょ?一人の時に見てっていつも言ってるのに!」



ソファの後ろから僕の手にあったリモコンを奪い取ったのは、まだ若干眠そうな君。



‥‥‥あーあ、もう少し見ていられると思ったのにな。

テレビ越しの、あの華やかな笑顔も大好きなんだから。



「おはよう、恋。もっと寝てて良かったのに」

「そうしたかったんだけどね、隣の部屋で自分の声が聞こえるんだもん。一気に眼が醒めるよ」



少し睨むように、君は僕を見る。



『恥ずかしいから私の前では私の出てるテレビも雑誌も見ないでね‥‥新聞もダメ!‥‥‥え?ラジオなら声だけでしょって?そ、それもダメだってば!もう、揚げ足取らないでよ、全部ダメなんだから!』



って無理矢理約束させられたのは、付き合い始めてすぐの事だったかな。


あの頃は、真っ赤にして怒る君がひたすら可愛くて。
やっと僕を意識してくれた、君を手離したくなくて。
嫌われるのが怖かった。

今でも決して平気じゃないけど、でも。
‥‥‥君が僕を見てくれているって、感じる。



「そうだったんだ‥‥‥ごめんね、もっと音量下げていれば起こさずに済んだのに」

「いや、そこじゃないよ。私が言ってるのは‥」



知ってる。
起こさないで、と言いたいんじゃないくらい。
ただ恥ずかしいんだって。


ただ僕が、最近お疲れの君をゆっくりさせてあげたかった。

でも、そう本当の事を言えば優しい君だから、申し訳なさそうに謝ってくるから。



「これでもテレビの君で妥協したつもりなんだよ?恋の寝顔をずっと眺めてるのは危険だし」

「き‥危険?」

「うん。だって、色々と押さえられなくなるでしょ」

「‥っ、もっ、バカっ!!」



今のは紛れもない本心。

僕は隙があるようで無い、君の笑顔が好き。
何年も何年も、ずっと‥‥追い続けていた女の子がそのまま綺麗になってそこにある、笑顔。

それがずっと本当の桜井恋だと思っていたんだから。





でも、付き合うようになって、少し違っている事を知った。



「仕方ないよ。今の恋は可愛くて襲いたくなるんだもん」

「どっ、どうせすっぴんは子供みたいですよっ!」

「‥‥違うのに」



確かにメイクを落とすと歳よりも幾分童顔になる。


でも素肌は肌理が細かくて、生活時間が乱れている芸能人とは思えないほど。
相変わらず瞳はキラキラしているし。いつもより表情がハッキリ出る。


それにね。
君は気付いていないだろうけど、笑顔が全然違うんだよ。




『な‥なんか、照れちゃうね。こういうのって』


初めて一緒に朝を迎えた時。
飾らない笑顔で照れてる君の、あまりの可愛さに感動した。



ほら、今だって。やっぱり、真っ赤になった君は可愛い。



「突っ立ってないで、こっち来て欲しいなぁ」

「やだ、詩紋ってばからかうでしょ」

「からかわないよ‥‥‥よっ、と」

「うわっ」



いつまでも僕の後ろで拗ねている君の手を無理矢理引っ張って、膝の上に引き寄せた。

腕の中でもがく君が逃げないように、ギュッと抱き締める。



「同じ日にオフも久し振りだし、何処か行きたい?」

「ううん‥‥‥こうしていたい」




詩紋を補充したいの。




甘えるように、控えめにその頬を僕の胸に摺り寄せる。
僕に、僕だけに見せる恋の表情。


‥‥‥これはもう、色々と駄目だよね。




「うん。僕も恋を補充していたい‥」

「‥‥わっ!‥きゃっ、どこに手を入れ‥‥っ!?」






皆に見せる綺麗な君の笑顔が好き。




‥‥だけど、飾らない今の君は特別。

どんな表情も、愛している。
君の全てが可愛い。






ねぇ恋。

僕の、『最愛』。





 



数ヵ月後?数年後?な二人の優しい時間をイメージしました。


  

   
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