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「カット!はいOK。じゃぁ次本番ねー」

「はーい」





セットには主演女優と相手役の俳優が、激しく言い合っている。
昼ドラには欠かせないシリアスシーンの撮影に、脇で見ている私もぐっと息を呑んでいた。
このシーンが終わればドラマはクランクアップ。
一つ前のシーンを演じていた私は勿論残っているし、他の役者さんもスケジュールが空いた人が何人か来ていた。
この後スタジオで盛り上がる予定の打ち上げの為に。








『あの子を見捨てろというのか?お前、よく考えろ』

『俺が守るのはお前だけだって言ってたくせに!嘘つき!!』

『‥ああ、言ったさ。今も変わっていない。けどな、あいつは独りで悩んでるんだ‥‥放っておけないだろ』










「‥‥‥俺が守る、かぁ‥」


セットのオフィスで言い争う二人に無意識に呟いた声は、マイクが拾わない程度に小さいもの。

守るとか、お前だけを愛してる、とか。
男の人ってどうして永遠に守れそうにない約束ばかりしちゃうんだろう。



そうツッコミたかったのは私の前で繰り広げられてるシーンに対して。
このドラマは女の人が好きそうなドロッとしているもの。


ヒロインの彼氏に、後輩(私が演じている)がストーカー被害にあっていると相談する。
後輩は彼の事が好きで好きで、けれど言い出せない内気な女。
二人で会っている内に恋人も少し惹かれ、それを知ったヒロインが身を切る思いで別れを告げる‥‥‥。



そんな、昼ドラの王道を行く話。


私の役どころを聞いた時、まさに話題を蒸し返して高視聴率を狙っているんだと分かって、少し笑ってしまった。




「カーーット!!お疲れ様!」



わぁ!っとスタジオが歓声で沸く。
スタッフが主演の二人に花束を渡し、私も彼らに拍手を送った。



「桜井さん、お疲れ様でした!」

「えっ!?私も?‥‥わぁ、綺麗!ありがとうございます」



‥‥‥どうしたんだろう。
いつもの様に笑うのが少しだけ、重く感じる。





















「恋、25日なんだけどさ〜」

「うん、覚えてるよ。ママと雑誌の対談でしょ」



帰宅途中の車内。

来月にクランクインの映画の台本を読んでいたところに、ハンドルを握る松本さんが話しかけてきた。
私は顔を上げずに返事をする。

ママ、というのは本当の母ではなく、その映画で私の母親を演じる先輩女優のこと。

芸能界に長く籍を置き、実力も人気も不動だというのに、とっても美人で気さくで。

『今から役作りね。ママと呼んでくれるかしら?』と未熟な私が早く慣れるよう言ってくれた彼女が、私の憧れなのは言うまでもない。



「そうだったんだけど、来月に延期。明日は急遽オフになった」

「えっ、延期?何で?」

「クランクインには間に合うそうだけど、急性盲腸炎で入院だって。極秘だから口外禁止ね」

「分かった‥‥‥大丈夫なの?」

「命には別状ないって。手術も簡単らしいし大丈夫」



松本さんは空けた手で、私の頭をポンポンと撫でてくれた。



「それよりさ、久々のオフなんだから好きな事しなよ?最近の恋は頑張ってたんだからね」



と言ってくれたけど、何をしたいか分からない。
長年この世界にいた自分。
咄嗟には、掃除か買い物しか思い当たらない。



「‥‥うん」



一人旅、とか?

いくらなんでも寂しすぎる。










 

 
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