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芸能界に入ったきっかけは?

当時アルバイトをしていた喫茶店で、常連だった田丸さんに「製菓番組を作るんだけど君出ない?」って聞かれたのがきっかけです。テレビ局のプロデューサーだったとは知らず、初仕事がいきなり『クレスト・カフェ(※1)』のメインだったんで驚きました。
(※1…B局放送中の製菓番組)

スカウトだったんですね。もともと芸能界に興味はあったんですか?

芸能界そのものではないけれど、入りたいとずっと思っていました。

意味深な発言が気になります(笑)

気にしてください(笑)

という事は、興味があったのは芸能界じゃなくて新婚ほやほやの『奥様』と決めつけてしまっていいんですか?

どうぞ。事実ですから。

…あっさり肯定されるとは(笑)読者の方も驚いているでしょうね。それでは最後に、初公開の奥様とのエピソードなんて教えてください

無理矢理振ってきましたか(笑)エピソード‥‥あ、この前なんですが僕が一週間のロケで出かける直前になって、妻が泣きだしたんですよね。どうしたのかと思ったら、彼女愛用のウサギの縫いぐるみ付きスリッパがあるんですが、目の部分が取れてい
て。柔らかいプラスチックで出来ていたから踏ん───






「うっ‥‥なにこれなにこれ何これーっ!!し、詩紋くんっ!?」

「?大きな声出してどうしたの恋」


ドラマの撮影がひと段落した日の、夕食後。

私の声を聞きキッチンから移動したのか、ソファーの後ろでひょいと手元を覗き込む詩紋くんの顔面に、持っていた雑誌を突きつけた。
黒い壁を背に、長い足を組んで柔らかく微笑む色気あるグラビアに白抜きで書かれたインタビューの内容。


「ちょ、そんな近くじゃ見えないってば」

「見えなくても覚えてるでしょ!?これ何なの!」

「何が‥‥‥って、ああ。もう発売してたんだ」


ほんの少し下げたページを見、ふむふむと頷きながら詩紋くんが右手に持っていたグラスを差し出した。

左手のグラスからはコーヒーの匂い。


「はい、今日は疲れてるみたいだから甘めにしといたよ」

「あ、ありがとう」


咄嗟に受け取ると、汗のかいたグラスがカランと音を立てた。
今夜は大好きな甘いミルクティーだ。

食欲が少ない時は手作りの野菜ジュース。
長時間の撮影があった日は、お肌の為にフルーツたっぷりのフレッシュジュース。
リラックスしたい時は、紅茶。

詩紋くんはとてもよく見てくれている。
私の事、とても大切にしてくれているから、幸せだなあと思う。
でも、これは別。


「それで?」

「うん?」

「もう!だから、何でこんな事言っちゃうの。こんな‥‥‥、っ」

「んー、言いたかったから?」

「聞かれても困るよ」


顔だけ斜め上に振り返り、綺麗な青空色を睨みつける。
すると詩紋くんは何故か空いた右手で顔を覆った。


「恋‥‥ストップ!それ、可愛すぎる」

「はぐらかさないの!真面目に聞いてるのに」

「‥‥‥僕だって真面目に言ってるんだけど」


今の私の発言に少し不機嫌になったらしい。
私の隣に腰を落として、左手に持っていたグラスをローテーブルに置いた。
この匂いは、彼の好きなブルーマウンテン。ノンシュガーミルク多め。

ぎし、と一人分の重みが加わって、私の左側で熱が生まれる。


「だってね、恋が可愛いから仕方ないじゃない」

「えっ?」

「今の顔はすっごくキたし、質問されてなかったら今すぐあんなこととかしたいなあって堪えるのは辛いし」

「な‥っ、」


あんなこと、って聞くまでもないと思う。
かぁっと頬に熱が集まる私は、いつまで経っても慣れない。


「そんなところが可愛くてしょうがないんだ」


詩紋くんが眼を細めた。


「インタビューもね、恋を僕の妻だって自慢できるのが嬉しくて溜まらなかったんだ。嫌な思いさせたなら‥‥ごめんね」


遠い人に片思いを何年もして。
ようやく手に入れたから、そしてようやく世間に私との関係を公表出来て。

僕のものだと、堂々と宣言出来るのが幸せなのだと、微笑まれて。


「‥‥‥いいよ。イヤじゃ、なかったもの」


下から申し訳なさそうに覗き込まれたら、いいよって言わずにいられない。
それが彼の計算だとしても、私も甘いから。

イヤじゃないなんて、偉そうに言ってみたけれど。

本当は嬉しかったりする。


非常に恥ずかしい、いたたまれない気持ちに少し陥ったけれど。





 
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