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紅葉が鮮やかな色で町を染め始めた。
外を歩けば時折吹く風が、暖を求めた手をポケットの中に仕舞わせる。

秋が、深まる。

そう言えば去年の今頃、番組で紹介するクリスマス用製菓のレシピと、届きそうで届かない恋愛に頭を悩ませていた。


そんな僕は今、思いもかけない位置から君を見ている。
一年前には切実に願った、途方も無い遠い夢の、位置から。



「‥‥あ、これ可愛い!‥‥でも小さ過ぎるかなぁ。これの大きいサイズは、っと‥‥」



風呂から上がった僕の耳に飛び込んだのは、どうやら独り言らしい。



「あ、やっぱりこっちの方がしっかりしてそう。でもこれも可愛いなぁ‥‥うー、悩む‥っ」



声の主に気付かれないように、そっとリビングに足を忍ばせた。

近くにソファもあるのに座る事を忘れたのか、高い視点からのイメージを思い起こしているのか立ったまま。
首を傾げるたびに揺れる、サイドに束ねた髪の一筋が背中にさらりと落ちる。
浮かべている表情はきっと演技でも何でもない、素のままの恋。
外では絶対に見せない普段の顔。

そんな君を無性に閉じ込めたくなる僕はもう、末期だろうと自分で思う。



「うん、やっぱり相談して決め‥‥‥わっ!?」

「誰に相談するの?」

「──もうっ!びっくりするじゃない」



手に持つカタログごと後ろから抱き締めれば、怒った様に見上げてきた。
それでも嫌がる素振りを見せず、それどころか後ろに凭れてくる君に、馬鹿正直に動悸が跳ねる。
勿論、そんな余裕の無さなんて見せる気はないけれど。



「家具を選んでたんだ?」

「うん。でもここのショップのどれも素敵で決められないから、詩紋くんに選んで貰おうかなって」

「ん、どれ?」



───もうすぐ僕は世界で一番幸せな男になる。

いや。今この瞬間も、幸せで仕方ないけれど。

長い間想い続けた娘が今、新しい生活の準備をしているんだから。

他でもない、この僕と暮らす為に。



「えーとね、テーブルなんだけど。このアンティーク調の足が可愛いんだけど、ちょっとサイズが小さいんだよね」

「僕がお菓子作るのに不便だ、って思ってくれたんだ?スペースが狭くても大丈夫だから、恋が気に入ったのでいいのに」

「‥‥‥うん。でも、たまには一緒に作ったりしたいなぁって‥‥そういうの、夢だったから」



ほんのり照れて桜色に染めた頬。


ほら。こんな時、苦しいほどに愛しさが溢れる。

柔らかい頬に唇でそっと触れながら、指で恋の持つカタログのページをパラパラと捲った。

こういうカタログって、ダイニングのずっと後にもう一つの重大な選択項目が載っているんだ。



「あ、このダブルベッド寝心地良さそうだね」



芽生えた悪戯心の赴くまま、望む反応を引き出そうとして指を差す。



「今はテーブル選んでるんでしょ詩紋くん!」



案の定、怒った様な困った様な顔で僕を見上げる君の頬がまた、ゆっくりと染まって行くから。



「テーブルもいいけどこっちの方が重要だと思うよ。まずは頑丈じゃなきゃ。それからスプリングが良くて寝心地も良くないと。起きた時身体痛いと困るよね?」

「頑丈って‥、な‥‥‥何言って‥っ」

「あれ、真っ赤だよ。何想像してるの?」

「そ、想像なんてしてませんっ」

「あはは、恋ってばやらしいんだから」

「───っ!!」



ねぇ。僕の前ではずっと、飾らない君でいて。
僕の知らない君を、これから一杯見せて。

僕の隣で、僕の腕の中で。



そんな事を思いながら、膨れっ面を覗き込む。



「恋、怒っちゃった?」

「‥‥‥意地悪詩紋くんの所為です」

「うん、ごめんね。君と一緒に住むと思うと嬉しくて、舞い上がって仕方ないんだ」

「‥‥もう。そんな事さらっと言うと、これ以上怒れないじゃない」



嘘じゃない。

舞い上がってるのも、やっぱりベッド選びが最重要だと考えているのも、僕が意地悪なのも。


そして、



「これからは寂しい思いはさせないよ。恋の帰る場所は、僕の所だからね」



君の疲れも涙も全部、僕が受け取る。
明日また笑ってカメラの前に立てる様に。



「‥そっ‥‥‥そんな言葉を真顔で言っちゃう詩紋くんって、天然だと思うよ」


「うわ、恋に天然って言われた。凄く傷付いたなぁ」

「え、ちょ、何その言い方!?私は天然じゃないよ!?」

「‥‥‥え‥‥?」

「───もうっ!!」




───もうすぐ木枯らし一号がやって来る。


新しい住まいと、最愛の君を、僕の元へと届ける風が。






Red Leaves







Red Leavesとはそのまんま紅葉です。
紅葉、好きです。緑から赤に鮮やかに色付くまでの、移り変わってゆく黄色やオレンジも。
完成された濃い赤の、仄かなグラデーションとか、ひらひらと散る様とか。櫻とはまた違う愛しさを覚えます。
心浮き立つ桜。心静まる紅葉。って感じですか。
‥あ、注釈が長くなった(笑)

これは本編というかちょこっと番外編的な話。
前サイトからお世話になっている義姉(笑)の河原世流さまから頂いた詩紋×ヒロインのイラストを元に書かせて頂きました。

イラストがあまりにも可愛くて、格好よくて、っていうかもうラブラブって素敵‥!夢バンザイ!!とニヤニヤが止まりません。この話も世流さんに押し付ける勢いですすみません。

世流さん、素敵なイラストをありがとうございました!!





   
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