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「「また来週〜」」



揃った声。カメラ越しの視聴者に笑いかける。 
そして、出来立てほかほかブラウニーから洋酒のいい匂い。



「はい、OKでーす」



監督の少し間の伸びた声で、スタジオの空気が一気に解れた。




深夜枠の製菓番組。
すぐに打ち切りになるだろう、と、大半の知人の予想を裏切って、一年経った今はかなり視聴率が上がっている。

原因はなんと言ってもこの人、流山詩紋にあると思う。

簡単な作り方で、しかも失敗しないコツを丁寧に教えてくれることは勿論、なんと言ってもこのルックス。

何処のモデルだ、と間違えてもおかしくない彼は、しかしこの仕事以外は一切引き受けていないので、余計に話題を集めている、と思う。



「お疲れ様、流山くん」

「桜井さん、お疲れ様でした。クリスマス前なのにバレンタインの収録って、不思議だね」

「まぁ、生放送じゃないから。私はバレンタインが楽しみだよ。このブラウニー、きっと反響大きいね」

「本当?良かった。男が食べるからビターにしたんだけど、もっと甘いケーキにしようか最後まで悩んでたんだ」

「へぇ。そっちもいいな」

「じゃぁ、今度桜井さんに作るよ」

「いいの?楽しみにしてる」



可愛いチェックのエプロンが私より似合う彼は、紐を解きながらホッと肩を竦めた。

ドラマや映画の撮影ではないものの、やはり此処は真剣勝負の世界だと私は思っている。
手は抜かない。
一つ一つの仕事に全力で取り掛からなくては、元アイドル現(一応)女優という私の立場は酷く危ういのだから。



「今日も可愛かったよ〜、詩紋君も恋も」

「ありがとうございます」

「流山君が先ですか」

「はいはい。恋は拗ねないの。君が可愛いのは当たり前でしょ?」

「別に拗ねてませんって」



すっかりベテランのカメラマンに肩を叩かれながら、簡易チェアに座り画面をチェックした。
この人、確か私がデビューした十年前にカメラを持ち始めたのだったか。



「今日も綺麗に撮ってやったろ?」

「‥‥ほんと。私、こんなに美人だったんだ?」



おどけた調子に合わせてみる。
するとスタッフが「おっ、自分で言うか」「恋ちゃんらしいわね」なんて一斉に笑うから、わざと膨れて見せた。



「仕方ないでしょ、誰も言ってくれないんだから」

「あら、恋もそろそろ、言ってくれる人見つけなきゃね〜?」

「大きなお世話でーす」



今度はデビュー当時からお世話になっている、メイク係の池山さん。
舌を出して見せるんだけど、彼女には私の私生活も筒抜けだったりするから、あまり効果はない。


最年少の私はいつもからかわれて少し悔しかったりする。
けれど、和気藹々としたこの空気が居心地良い。
昔から知っているスタッフが大半を占めるスタジオでは、撮影が終わるとこうして仲良し空気になる。


何気ない恋愛っぽいネタだった話題は、そのまましっかりクリスマスデートの話へ。

私は「生放送が入ってる」と予め予防線を張っておく。
そうでもしなきゃ去年と同じ様に、話のタネにされるから。



「詩紋は?」

「僕ですか?一人です」

「え?詩紋君フリーなの?お姉さん、狙っちゃおうかな」

「年増の戯言は置いといて、お前の理想のクリスマスってどんな感じ?」

「まぁ、失礼ね!」



どうやら今度の標的はもう一人の弄られ役になったらしい。
自他共に認めるモテ男のADと、可愛い男の子好きな女性スタッフに捕まった流山くん。
ご愁傷様、なんて合掌していると彼がこちらを見た。





「‥‥‥僕は、好きな人を独り占めしたいから、家に二人で閉じ籠もっていると思います」




‥‥意外。
独占欲なんて無縁そうに見えるのに。




理由なく、何となしに私から視線を外せないまま、絡まった視線はすぐに彼の方から外された。

「可愛い奴だなお前!」とか言われながらスタッフ達に頭を撫で回されてジタバタしている。
確かに可愛い、なんて思ったことは秘密。

次の仕事に向かう為に「お疲れ様」と挨拶しながらスタジオを後にした。









 


 
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