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「詩紋くん」
「ん?」
「‥‥私を選んでくれて、ありがとう」
「恋‥‥」
初めての恋愛に傷ついたからこそ、詩紋くんに出逢えた。
与えられた優しさも、ぬくもりも、前に進む勇気も。
彼がいなければ、知ることがなかったから。
ありがとう。
ありがとう、詩紋くん。
「‥‥‥僕こそ、ありがとう。僕を好きになってくれて、選んでくれて」
優しく私の髪を撫でてくる。
この指が、好きで好きで‥‥いつまでも私だけに触れてくれればいいのにと、本気で思ってしまう。
「あと、プロポーズした時の可愛い恋を見せて貰ったね」
「え、えっ!?」
「涙ポロポロ流して、泣きながら僕に抱きついちゃって。可愛くて可愛くて思わず勃」
「──詩紋くんっ!」
流れが怪しくなってゆくのを慌てて止める。
最近、詩紋くんは遠慮なくこんな風に、ちょっとやらしいネタを口にするようになった。
綺麗な顔して言うものだから、本当に心臓に悪い。
「‥‥恋もあんなによろこんでたのに」
「歓んでない!えっち!‥‥‥あっ」
‥‥しまった。
言ってからタチの悪い笑みに気付き、ハメられたのだと知る。
「えっち?僕はプロポーズした時の話をしてるんだけどなぁ」
「‥‥うっ」
「何を想像してたのかな、えっちな恋ちゃん?」
「〜〜っ、詩紋くんのあほ」
睨みつけると、快活な笑い声が車内に響いた。
「恋が可愛いからつい苛めちゃって、ごめんね」
そうして、掠めるだけのキスが落ちる。
それだけで機嫌が直ってしまう私って、本当に現金だ。
「いいけど。‥‥‥詩紋くん意地悪だってお父さんに言っちゃおう」
「それは勘弁して」
「あはは、嘘だよ。詩紋くんは世界で一番優しくて素敵な人だから」
会見と同じ言葉に、詩紋くんの頬がほんのり染まった。
「じゃぁ、僕は世界で一番幸せ者だとお義父さんに言うよ」
「私も世界一幸せ者だよ。明日、流山恋になれるんだから」
言い終える前に、唇に熱が触れる。
「‥‥早く、明日になって欲しいな」
詩紋くんの掠れる声に、もっと熱を感じてくらくらと酔った。
いつの間にか、雨は止んだ。
ドアを開ければ、初夏の風を感じる。
洗いたての空に陽の光が溢れたと思えば、大きな虹のアーチが描かれている。
詩紋くんの色と同じ、金の光を渡るように。
‥‥‥大好きな人とこれからも続く、新しい日々を祝福している気がした。
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