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───あれから。
どうして「スキャンダル」と言う形で公表させたのか、そう聞く私真面目に答えた。
『恋に過去を乗り越えて欲しかった。自信を持って欲しかったんだ』
何があっても離れないと。
離さない、と。
私が自信を持って思える為に、敢えて荒療治を選んだ。
‥‥‥と、謝りながら告げる詩紋くんが愛しい。
私を見つけてくれた詩紋くんが、愛しい。
きっと、時が経てば経つほど思い知ってゆく。
この人の愛情を、その深さを。
『‥‥僕と、結婚して下さい』
言葉と共に、薬指を滑るリング。
『実はね、二年前から用意してたんだ』
『‥‥嬉し、‥‥っ』
そう言って照れ笑いする詩紋くんにの顔が忘れられない。
頑張りたいと、心から思う。
優しい彼に相応しい人間である為に。
彼を幸せにしていく為に。
あの週刊誌を皮切りに世間をお騒がせしてから、一ヶ月。
今朝の天気予報で梅雨入りが発表されていた。
家を出る時すでに降っていた雨は、その勢いも治まりつつある。
詩紋くんは初めて訪れる土地。
私には懐かしい、変わらない景色。
助手席でゆっくり堪能していたら、車がガレージに止まった。
「詩紋くん、ネクタイ曲がってるよ」
「ほんと?慣れないからなぁ」
「あ、私がやるよ」
うーん、と唸りながら慣れない手つきで結び直そうとする。
流石はモデルだ。
スーツが似合いすぎて、さっきからドキドキしているのは秘密。
詩紋くんの手を止めて、彼のネクタイに手を伸ばす。
鏡がない今、その方が早いと思っただけなんだけれど。
「‥?どうしたの?」
「‥‥‥なんか、いいね」
「詩紋くん?」
「こういうの。新婚みたいでいいなぁって」
「‥‥な、何言ってるの」
にっこりと、それはもう満開に笑う。
「違った。『みたい』じゃなくてもうすぐ新婚だもんね」
「‥うっ、そ、そうだけど‥‥」
「あはは、照れてる恋はやっぱり可愛い」
真っ赤になった私の頬を指でつつきながら、詩紋くんは眼を細める。
‥‥もうすぐ、新婚。
ちょっとだけ訪れた沈黙は、お互いにこの言葉を噛み締めているからだろう。
少なくとも、私は幸せで泣きそうになっているから。
ここ一ヶ月は二人して仕事に追われていた。
発売された週刊誌には彼の言葉通り、私への中傷の言葉はない。
聞けば、最初の記者は以前から私のファンだったらしく、今回の詩紋くんとの話をカメラマンから聞いてキレてしまった挙句、私を傷つける文章を書いてしまったと言う。
カメラマンの人から事情を聞き、その上で謝罪の言葉を貰い、逆に恐縮してしまった。
中には彼の様に、怒ってしまったファンの人もいると思う。
認めないという人も、詩紋くんのファンの中にもいるだろう。
好感度が下がるのは、お互いに了解していた。
それでもいい。
例え芸能界をまた一から始める事になっても、詩紋くんと一緒なら楽しいと思う。
そう覚悟して、二人並んで記者会見に臨んだのは、週刊誌発売の翌日のこと。
‥‥だけど、予想外にも。
記者会見は好評だったらしく、ちょっと惚気過ぎたかなと反省した会話が、逆にウケたとか。
暫くはマスコミも色々と聞いていたけれど、それはむしろ好意的で。
あれから、私達の仕事は、逆に増えた。
松本さんは『予想通りだよ』って満足そうだったけれど。
あれから仕事を必死にこなし、二人揃ってオフをもぎ取ったのが、今日。
電話では報告していた私の両親に、結婚の挨拶をしに行く。
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