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「前もこうして話し合ったね」
「あ、うん。‥‥随分前に感じるけど」
「そんなに時間が経ってないのにね」
そう笑う私に詩紋くんもまた笑った。
クリスマスからまだ半年。
なのに、あれから何年も経っているように思えるのは、それだけ疲れているからだろうか。
今日一日でかなり時間が過ぎた気がする。
俯くと、大きな手に髪を撫でられた。
「‥‥あの写真ね、僕が知り合いに頼んで撮って貰ったんだよ」
「え?」
待って。
今、なんて‥‥?
写真?今詩紋くんが言う写真って‥‥‥週刊誌の写真だよね。
知り合いに?頼んで?
私、耳がおかしくなったのだろうか。
彼の唇から、紡がれる筈のない単語が羅列している。
「僕達のマンションってプライバシー保護がしっかりしてるから、玄関も外から見えない構造になってるでしょ。あの角度で写真を撮るには、向かいの棟からでないと無理なんだよ」
「え?え、うん?」
よく考えれば、そうだ。
マンションはパティオ形式の中庭をぐるりと囲んだ四角形の形で、玄関は全て中庭に面した廊下に設置されている。
「‥‥ごめんね。あの記事を書いたのは知り合いとは別の人なんだ。今、記事の差し替えさせてる」
「‥‥‥」
「発売される本には、恋を傷つける言葉なんて書かせない、絶対に。約束する」
声が出ない。
体が恐怖や悲しみとは別の意味で、固く止まってしまったようだ。
それって‥‥。
スキャンダルを提供したのは、詩紋くん?
どうして、詩紋くんが仕組んでた?
世間に知られれば一緒にいられない。
そう、彼に何度も言っていた。
共に居たいと願うから、今まで細心の注意を払ってきたつもりだった。
詩紋くんも、同じだと思っていたのに‥‥。
頭の中がさっきとは別の混乱でぐるぐると回っているけれど、不思議。
「‥‥ちゃんと‥説明、してくれるでしょ?」
「恋‥‥‥僕を信じてくれるの?」
「当たり前だよ」
何故、どうして、週刊誌に私達を公表させたのか。
意図は全く見えない。
だけど。
これだけは、確信を持って言える。
青空を映した瞳。
中にあるのは、紛れもない愛情なのだと。
彼が私を裏切るなんてありえない。
私は、愛されている。
自惚れにも取れるかもしれない。
けれど、それは私にとって揺るがない自信だった。
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