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後になればなるほど、
その思いの深さを知る。
取り敢えず彼が来るまで何かせずにいられなくて、だけどホテルじゃ掃除も出来なくて。
結局シャワーを浴びる事に決めた。
時間をかけてバスルームから出て頭を拭いていると、「部屋の前に着いたよ」と電話があった。
直後、コンコンとノックの音がする。
マンションとは違い、インターフォンでない事をやけに寂しく思いながら、重厚なドアを開けた。
どんな顔をして会えばいいのか。
電話での詩紋くんは強く優しく、私の弱さを受け入れてくれた。
だけど、傷つけた筈で。
そんな私の心配を余所に、ドアの向こうに零れる太陽の笑顔。
「ただいま、恋」
「‥‥‥っ」
詩紋くんの短い言葉に、簡単に涙が溢れる。
ただいま、って。
「私」が詩紋くんの帰る場所だと、言葉の裏に深さを込めて。
「おかえり‥なさいっ‥‥!」
迷いもなくしなやかな背中を抱きしめたら、シャツがほんのり汗ばんでいた。
「恋ってば、一人で考えて泣いてた?」
ぎゅうと抱きしめ返してくれる詩紋くんの心臓が、速い。
「違う。詩紋くんに、会えたから‥」
「なら良かった‥‥‥もう離れるなんて、言わないよね?」
「うん、っ‥‥、うん!」
優しく問いかけてくる声に、何度も頷く。
どうして、この熱を手放せると思ったんだろう。
私の中の夜をまるごと照らす、眩しい光を。
お日様みたいな優しく綺麗なこの人を。
‥‥‥と、感傷に浸っていた私を現実に引き戻してくれたのは、その光、つまり詩紋くん本人だった。
「良かった。恋が一緒に頑張ってくれなきゃ、ダメになる所だった」
「ごめんなさい‥‥」
「違う。ごめんねは僕のほう。恋を泣かせたから」
「そんなこと‥‥っ」
「聞いて。とにかく座って話そう、ね?」
否定しようとする私の唇を、詩紋くんの指が塞いで止める。
それから彼は自嘲気味な笑みを口の端に描いて。
二人並んだソファは家のものより身体が沈んで、何だか落ち着かない。
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