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「ただいまー‥‥‥っと、そうだった」
ドアを開ければ、真っ暗な玄関。
「ロケって言ってたのに。忘れてた」
家に帰ると詩紋くんはいない。
今まで逆はあっても、詩紋くんがロケに出ることって殆どなく。
その数少ないロケの時も共演者として私と一緒だったから、何だか落ち着かない。
‥‥‥寂しいな。
なんて言ってしまうのは、頑張ってる彼にとってプラスにならないから、口には出せないけど。
詩紋くんも私がロケの時は、笑って見送ってくれる。
だったら私もそうしなきゃ。
大丈夫、明後日には帰ってくる。
「‥‥あ」
そんな事を思いながらお風呂を洗っていると、遠くで聞きなれた音が鳴った。
慌ててスポンジを投げ、途中の部屋をバタバタと走る私。
詩紋くんだ、と確信してるなんて一体どれだけ好きなんだろうと思うと可笑しくなる。
「はっ、はいっ!」
『あ、もう帰ってたんだ?お疲れさま』
それは、ロケ先からの電話。
「う、うん。今日はリテイクも殆どなかったから」
「わぁ凄い。さすが実力派女優さんだね』
「もうっ、からかわないでよ」
『あはは。恋の照れ屋さん』
「‥‥‥もう」
どうしよう。
どうしよう‥‥受話器越しなのに、耳元で囁かれてるよう。
小さな息遣いまで耳に心地よく響く。
それはきっと、周りに聞こえないように電話を手で包んで話しているから。
『恋の声聞くと、落ち着くね』
くすぐったそうに微笑われた響きに、さっきまでの寂しさは何処かへ飛んでしまった。
本当、私ってば現金だ。
「‥‥そうそう、あのね、今日‥」
『流山さーん!スタンバイお願いします!』
今日の報告をしようとしたら、電話の向こうで彼を呼ぶ声が小さく聞こえた。
『あ、はい!‥‥‥どうしたの?』
「それより、呼んでるよ」
『でも、何か言いたかったんじゃない?』
「え?ううん、大した話じゃないから、また明日。頑張って」
『そう‥?ありがとう。行ってくるよ。‥‥ねぇ』
「ん?」
『好きだよ。恋は?』
「‥‥っ、も、もう!」
不意打ちにどぎまぎする。
誰も聞いてないのに恥ずかしくて。
咄嗟に怒った振りをすると、受話器越しに彼は笑った。
「あはは。また明日聞かせてね。じゃ、行ってきます」
柔らかな吐息が漏れて、そして。
途切れた通話。
「‥‥好きだよ」
受話器ををそっと耳から下げながら、心から囁いた。
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