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詩紋くんの運転で、二人の新居となったマンションまで十分足らずで到着した。
彼が探してくれたこのマンションは、駐車場が地下にあり部外者が入れない構造になっている。
お陰で前の住処よりはプライバシーに配慮出来るようになった。
「「ただいま」」
「‥‥あはは、一緒だね」
「うん。おんなじ」
偶然重なった「ただいま」が嬉しくて、顔を見合わせて笑う。
彼と居ると、こんな瞬間すら暖かいと思わせてくれる。
愛しいって思わせてくれる。
「恋」
「‥‥‥な、なに?」
名前を呼ぶ声音に艶を感じて、焦る私。
ソファに座って両手を広げる詩紋くんが首を傾げた。
「寒いから、ここに来て欲しいな?」
「えっ!?まま待って!へ、部屋もうすぐ温まるから」
「えーっ。今寒い。恋をぎゅってしたいもん」
「可愛く言ったってダメです!」
頬を膨らませて、長い足を組み直す。
格好いいのに可愛い仕草が似合う詩紋くんって、卑怯。
こういう所が女心を擽るんだから。
そういうの全部、知っててやってるんじゃないかと疑ってしまう。
うん。詩紋くんなら有り得そう。
「今、余計なこと考えたよね」
「──っ!!」
「僕、恋の前では素直なんだよ。信じて」
「‥‥ん。ごめんね」
ふ、と詩紋くんが浮かべた表情に泣きたくなって。
申し訳なさと湧き上がる愛しさから、私のほうからぎゅっとその首に腕を絡めた。
お日様みたいな柔らかい髪に頬を埋めれば、詩紋くんが驚いたように肩を揺らす。
「詩紋くんはいつでも素直だよ」
自分に素直というか。欲求に素直というか。
仕事の時は真面目な好青年なのに、私の前では子供みたいになることもある。
「私に意地悪な部分も、自分に正直だからだよね」
「‥‥あ、言うようになったなぁ」
「本当の事ですから」
「ふふ。だって恋が悪いんだよ?困った顔も可愛いから、つい困らせたくなっちゃうんだ」
いつの間にか腰に回った詩紋くんの腕にぐい、と力が籠もる。
引力に従って、彼の膝の上に跨る格好になってしまった。
「よし、恋捕獲」
「甘えんぼ」
「‥ほんっと、言うようになったね」
今頃になって、身体がとても冷えていたんだと自覚した。
力強く私を包む暖かい詩紋くんに、ほっと息が漏れる。
身体も心もゆっくりと綻んでゆく。
こんな時間があるって、初めて知った。
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