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十五歳の冬。
当時はまだ付き人だった新人の松本さんに迎えに来てもらって、田舎の町から上京したのはこの日だった。
はじまりの場所。
生まれた町にはない、初めて見たツリーの大きさも、夜の海面に反射するイルミネーションの美しさに我を忘れて魅入ったことも。
この場所で私は生きていくんだって、頑張ろうって決意した日。
あれから毎年、イブに訪れている。
落ち込んで、苦しんでいた年もあった。
もう駄目だ、もう芸能界を辞めたいとと思いながら、それでもこの場所に来ては決意を新たにしようと。
時には喜びを胸に。
時には堪え切れない涙を流して、それでも。
‥‥‥どれくらい時間が過ぎたのか。
「風邪、引くよ」
ふわり、声と同じくらい暖かな感覚が肩に舞い降りて、意識が引き戻された。
「‥‥‥え?」
「もう二時を過ぎたし、そろそろかなって思ったんだ。これ以上は危ないからね」
帰ろう?
私より頭ひとつ半高い位置で笑う見慣れた彼の吐息が、ツリーと同じ白い色。
笑顔が寂しそうに見えたのは寒さの所為なんだろうか。
それはそうと、どうして私がここに居ると解ったんだろう。
「松本さんに聞いたの?」
「松本さん?──ああ。ううん、違うよ」
周りを見れば、此処に来た時には多かったカップルの姿も随分減っている。
私は手袋を外した右手を伸ばし、整った輪郭に触れてみた。
‥‥やっぱり。
「だって、こんなに冷たい‥‥詩紋くんもずっと外に居たからでしょ?」
私の指より、詩紋くんの頬の方が冷たい。
冷え切ったのは詩紋くんも同じ。
彼もまた、長い時間外に居た事の証拠。
この場所に居ながら私に声をかけることなく、恐らく黙って見守ってくれていたんだろう。
さっきの言葉の端でそう感じた。
それって事情を知っていなければ出来ないことだ。
私がここに居る、理由を。
「うん、居たよ。流石に君を一人にさせて置けないから」
「じゃぁ」
「でも松本さんには何も聞いてない。君がイブの夜に必ずここに来るって、僕は知ってただけ」
「どうして?」
と聞けば、「‥‥うん」と笑うだけ。
ああ、そうだ。
そういえば去年の今日、ここからツリーを毎年見てるって、言った気がする。
彼もまた、毎年このツリーを見てるとも聞いたっけ。
そうか、あれから一年が経つんだ。
「続きは帰ってから話すよ。とにかく帰ろう。身体、僕が暖めてあげる」
「‥!‥あ、暖めてって‥エッチ!」
「エッチ?なに想像してるのかなぁ、恋ってば」
「──っ!!何でもない!」
「あ、真っ赤。可愛い」
悪戯気に笑みながら、眼差しが誘うように揺れる。
その瞳も、横顔から続く首や、肩のラインが色っぽくてドキドキした。
‥‥もう。詩紋くんの馬鹿。
夜のせいだ、こんなに色気を感じさせるのは。
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