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「ほら、ちゃんと僕を見て言って‥‥君は、僕が、必要なの?」

「だから、詩紋くんの‥っ」

「僕の事はどうでもいいでしょ。本心を答えてくれないと、今ここで無理矢理抱くよ」



詩紋くんの眼が真剣すぎて、怖くて、逸らせない。
ここで誤魔化せば、言葉どおりの事をやってのけそうな迫力があった。



「‥‥‥い」

「聞こえない」

「ホントは傍に、いて欲しい‥っ!詩紋くんが居ないと寂しい。逢いたいの、もっと、もっと‥‥ずっと」

「‥‥っ、うん」



しなやかな背にぎゅっと腕を回して抱きつく。


陽だまりみたいな詩紋くんの匂い。
詩紋くんの鼓動が速くなった。



「でもね、私は仕事を辞める気ないし、詩紋くんにも同じ世界で生きてて欲しい。女優のお仕事は忙しいけど楽しくて‥‥‥だったら逢えないのは仕方ない」

「‥そうだね」

「ほらね、言ってる事が矛盾してるんだ。我が侭なんだって分かってるのに、寂しいって思っちゃって、でも仕事は辞めない、でも寂しいって矛盾してる‥‥‥これが、私の本心」



躊躇う「理由」だけは胸に伏せて、それ以外の「本心」は全てぶちまけてしまった。
ああもう、なんて事を言ってしまったんだろう。



「だから僕に言えなかったんだ?」

「‥‥うん。子供みたいで呆れちゃうでしょ?」

「ほんと、呆れるね」




予想していた答えなのに、それを聞いて傷ついている自分が居た。

『呆れてないよ』って言われたかったのか。
それこそ、自分自身で呆れてしまう。



「‥‥‥そ、だね。ごめんね」

「うん。恋は馬鹿だよ」

「うん‥‥我が侭でごめん」



抱き付いた腕を放し、一歩、下がって距離を置こうとしたけれど、それより一瞬早く肩を掴まれる。

そうして片手で私の頬を撫で、反対側の頬っぺたに詩紋くんの唇が降りた。



「呆れた。そんな可愛い事、何でもっと早く言ってくれないのかな」

「‥‥‥?」

「恋は僕を見くびってるよ。どれだけ好きなのか、ちっとも分かってない」

「えっ‥‥‥きゃっ!」



いきなり詩紋くんが屈んだと思ったら、背と膝裏に腕を当てられ抱き上げられた。

所謂お姫様抱っこと呼ばれるものに思い切り固まってる間に、すたすたと歩き寝室のドアを開ける詩紋くん。

ちょっと乱暴にベッドに投げられ、シーツに沈んだ。



「‥‥僕ね、君といる為なら何でも出来る位の覚悟で、今日まで来たんだ」

「そんなこと言っちゃ、」

「君が一人で泣いた時に飛んで行きたいから、マネージャーでも誰でも頭を下げて見てて貰おうって思うし、君に笑顔でいて欲しいから留守電に声を残すよ」

「そんな‥‥んっ」

「プライドなんてどうでもいいんだ。どれだけ君を見てきたと思ってるの?これでも片想い歴は長いんだから」



馬乗りになった詩紋くんが、顔中にキスを降らす。
そして甘い甘い言葉の雨も降る。

愛しいのと嬉しいのと、くすぐったいのとで身を捩りながら、涙が出た。



「逃げないで‥‥‥あんな可愛い事言われたら、ちょっと僕止まりそうにない」

「んぁっ‥‥‥可愛い、こと‥って‥」

「同じ世界で生きてて欲しい。でも寂しい、って‥‥‥恋は僕を殺す気なの?」

「それは違っ」

「今は黙って」



抵抗しようとした言葉は難なく唇に塞がれた。

キスと共に身体も、段々と激しく熱くなってゆく。



「二か月、逢えなかった分の埋め合わせを今からしてもいい?朝になっても終わりそうにないけど」

「?でも明日は撮影が」

「大丈夫。松本さんが明日オフにしてくれたから。恋のシーンは明後日に延期だって」

「え?‥‥えええっ!?」



‥‥‥私は何か、とんでもなくしたたかな人を好きになったのかもしれない。


ぽかんとする私のシャツのボタンを一つずつ外しながら、詩紋くんは爽やかに笑った。




「明日は昼まで寝て、それから気が変わらないうちに新居を探そうね」

「え、新居?何で」

「寝室は広くないと駄目だよね、ダブルベッドじゃないとキツイし」



‥‥‥?

それが同居宣言だと気付いた時は、既に疲れ果てた翌日の朝だった。












甘さ目指して背中が痒い(笑)


20090828






 
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