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玄関は、やっぱり暗い。
いつものようにライトを点けても。
家中を灯かりで満たしても、足りない明かり。

もう寂しいって思う気持ちは封印したはずだったのに、今私は寂しくて仕方ない。



何もする気がなくて、リビングのソファにダイブした。
ぼふっとクッションが跳ねて、うつ伏せた顔や手に布の感触。



いつからこんなに弱くなったのかな。
確かに私、昔はすごく寂しがりだった。

意味がよく分かってないのに芸能界に入って、よく分からないうちに私の所属したグループは人気が出て、ちやほやされるようになった。
苦労は?なんて聞かれたら「睡眠時間がない事」って平然と答えるほど、苦労を知らないでいた。


ほんとはね、寂しい事が一番辛かったのに。

一度は満たされた愛しさも心の隙間も。離れてしまうとその倍、苦しいんだ。
朝起きて、泣くの。
逢いたいって泣いて、寂しいって泣いて。
与えられた温もりでは足りなくなって、私はそれに縋りつく。




もし、普通に私がOLやってたら。
それで良かったのかも知れないけれど。

「私」は‥‥。










‥‥‥逢いたいよ。

声が聞きたい。話したい。






そのままソファに埋もれて眠ろうか、と思った時だった。

静まり返った空間に響く、振動。
鞄の中でマナーモードにしていた携帯が鳴っている。

誰だろう?

‥‥ディスプレイを見て、心臓が飛び跳ねるかと思った。



「は、はいっ!」

『こんばんは』

「こ、んばんは!詩紋くんとお話しするの、何だか久し振りだね」



努めて明るい声を出す。

空元気が何だ、心配させるよりずっといい。



「あ、そうそう!いつも電話出来なくてごめんね!ずっとずっと電話したかったんだけど、忙しくって」

『ちゃんと分かってるよ。お疲れ様』

「‥‥っ、‥で、でも毎日あの、留守電聞いてたよ!」

『うん』



静かな返事。
私からかけない電話を責めたりしなくて、ただ受け止めてくれる。

バカだよ詩紋くん。

そんな優しい声聞いたら私、泣きそうになるよ。



「‥‥いつも仕事から帰って来て、詩紋くんの「お疲れ様」を、聞いてね」

『うん』

「毎日それで、い、いちにちが終わっ‥‥たって、思‥‥っ」




唇が震えて言葉が出なくなった。
おかしい。
眼からぼたぼたと溢れるものが一杯なのに、口から何にも出てこない。

──ああ、手で嗚咽が漏れるのを押さえてるからなんだ。



『ねぇ、恋』



爆発するのを必死に堪える私に、電話越しに至極穏やかな声が降る。

まるで、囁きかけるように。



「‥ん、何?」

『僕に逢えなくて、寂しい?』

「っ!?」



───この人は反則だ。


寂しい?って、そんなの聞かれたら。



「‥‥だ、いじょうぶっ」

『強がらなくていいから。恋の本心を教えて』



寂しいって言ったらもう、ブレーキが効かなくなるの。
きっとあなたに縋って、あなた無しでいられなくなって。
最後には一緒にいられなくなる。

ねぇ、離れてても好きでいるから。他の人なんて見ないから。

忙しいからたまにしか逢えないけど、その時は一杯一杯抱き締めて。
私もそのときには目一杯甘えて、そして明日から頑張るよ。

それじゃダメなの?




そう‥‥頭の中で、ずっと言おうと用意していた言葉が回っていて。

なのに。



「‥‥‥詩紋くんに、逢いたいっ‥」



電話越しとは言え久々の詩紋くんとの会話が、いとも簡単に本音を紡ぎ出す。




「ホント‥は、今すぐ逢いっ‥‥‥!!」

『‥‥良かった。じゃぁ今すぐ逢おうよ』

「‥‥‥‥‥‥へ?」

『鍵開けてくれるかな?今、ドアの前なんだ』

「‥‥へ?‥って、えええっ!?」



な、なんて言ったの詩紋くん?




 


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