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帰りの車の中、松本さんの話を軽く聞きながら、ぼんやり街灯を眺めていた。
イルミネーションと、看板に「バレンタイン」の文字が目立つ。
過ぎてゆく店頭には綺麗なラッピングが並んでいて、こんな時間になってもまだ買う人がいるみたいだった。
今から渡すのか、自分用か‥‥‥
それとも渡しそびれたのかな。
───私みたいに。
膝に置いた紙袋の端をギュッと握る。
中には、進行表で隠した大き目の包みがひとつ。
渡せなかった「頑張った証」が、ひとつ‥‥。
「これからスケジュール的にもきつくなる‥‥‥‥って、恋。聞いてた?」
「‥‥‥え?あ、何となく?」
「上の空は珍しいね。疲れたかい?」
「‥そうかも」
「今日は詰まってたし、チョコ配ったりしたもんね。着いたら起こしてあげるから寝てればいいよ」
うん、と頷いて再び外に眼を遣った。
疲れた‥‥のかも知れない。
いわゆる気疲れなのかな。
でも、何故だろう。
本当に渡したかったモノを誤魔化してしまった。
でも、その理由が自分でも分からない。
「特別」をひとつ作ってしまったのも、
沢山の「好意」に渡せなかった理由も。
あれから半日、晴れない気分なのも、どうして?
「‥‥‥あっ‥、止めて!」
「ええっ?」
家の近くのコンビニを過ぎようとした時、視界に飛び込んだもの。
私は慌てて制止を頼んだ。
それでも反応は素早い。
ブレーキがキキーッ!とやや乱暴な音を立てて、車は止まった。
「いっ‥‥一体何なん 「松本さんごめん!今日はここでいいよ。か、買いたいものがあるから!」
「言ってくれたら僕が行くのに」
「せ、生理用品」
「‥‥うーん、そうか」
「お腹空いたから色々食べたいし。マンションすぐそこだから、ね?‥‥‥‥彼女さん待ってるよ」
止どめに「最愛の彼女」をちらつかせる。
すると効果はてき面で、
「寄り道しないで帰るんだよ。それからあまり食べると後で大変だからねー」
と耳に痛い台詞を残し、私を降ろして発進した。
コンビニの駐車場にぽつんと立ち明るい店内を見つめる。
慌てて降りたものの、今頃何を言えばいいのやら。
もう、チョコは渡したんだもの。
今からしようとしていることは、彼からすれば意味不明なんじゃないかな。
そうだよね‥‥やっぱり、帰ろう。
レジでお金を払ってる姿に気付き、やっと決心して踵を返した‥‥けれど。
「待ってよ、恋ちゃん」
ぐっ、と腕を掴まれて足が止まった。
私はそのまま俯いた。
振り返らなくても、掴んだ主が誰か分かってる。
「店、入るつもりじゃなかったの?」
少し息が荒い詩紋くんの声と、カサカサとビニールの擦れた音。
こんなにすぐ追いつくなんてびっくりした。
もしかして、外に立つ私を見て走ってくれたのかな。
‥‥‥優しい人だなぁ、もう。
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