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「‥あ。そうそう」



忘れるところだったー、と君が苦笑しながらバッグを開けて中をごそごそし始めた。

もっと長く居てくれるといいのに。
用件を思い出さなくて良かったのに。


そんな事を僕が考えているなんて知ったら、君は呆れるかな?



「あのね、今日は朝早くにごめんね」

「‥気にしないでよ。それより、もしかして徹夜だったりしない?」



よくよく考えれば今日は元旦。
そして当然昨日は大晦日。
九時間程前、テレビのカウントダウンで振袖姿の彼女が映っていた‥‥よね?


何でもっと早くに気付かなかったんだろう。
徹夜明けだという事に。



「あはは、年末はバタバタしてるから」



‥‥その言葉で分かってしまった。
恋ちゃんはここ数日ロクに寝ていない。



「‥‥‥」

「って、そんなことはどうでもいいの。今日の私はちょっと遅いサンタさん」



はい!と元気良く手渡されたのはシックな黒い紙袋。
もう片手でひらひらと恋ちゃんの携帯を振る。
ゆらゆら揺れるのは、携帯にたった一つ付いている、



「‥‥え?」

「ほら、コレのお礼と日頃の感謝と遅くなったメリークリスマス!」

「‥‥‥え?」



今日、二度目の不意打ち。
やっぱり僕は固まった。


開けていい?と聞けばにっこり頷く君に伸ばしそうになった手を、慌てて袋の開封に戻した。



「‥‥ごめんね。男の人にエプロンはないだろうって思ったんだけど、見つけた瞬間詩紋くんにぴったりだと思って」



少し申し訳なさそうに項垂れる恋ちゃんに気付いたけど、僕はまた固まっていた。

ギャルソンの様な黒いエプロン。
でもかなり凝った造りで、一言で表すなら「格好良い」。


コレを見てすぐに僕を連想したということは‥‥。







君に他意はないと知ってる。
でも、どうしてそう直球で来るのかな。





「気に入らなかったら、ごめんね‥‥‥ひゃっ」



思わず君を抱き締めたのは、二度目。
すっぽりと収まる柔らかさに、君は大人の女性で僕が男だと実感した。



「‥‥すっごく嬉しい‥ありがとう」

「良かった。でも‥‥詩紋くんって感激しちゃうと抱きつく癖があるんだね」



‥‥ん?何か誤解を受けている?

君の言葉がこの前のことも含めて居ると知り、訂正しようとしたけれど。
まぁいいやって思い直したのは、腕の中の恋ちゃんを見下ろしたから。



ねぇ、気付いてる?

君の耳が赤いって。



「‥‥好きだよ」

「えっ!?え、と‥あのっ、」

「エプロン。すっごく僕好みだな。センス良いね」

「あ、え、エプロンね!びびびっくりした」

「びっくりしたの?何に?」

「‥‥もう!」




君が遠い人だって知ってる。
僕だけのものになんてなれないことも、知ってる。


でも、誘惑と毒のある世界に長年籍を置きながら未だ素直な君が、堪らなく愛しいんだ。



「知らなかった。詩紋くんって意地悪なんだね」

「僕って意地悪なんだ?初耳だよ」

「うーわー。さらっと嘘吐いてるでしょ?」

「‥‥恋ちゃんに嘘は吐きたくないなぁ」



恋の甘さも、苦さも、苦しみも、喜びも。
全部君ごと受け止めるよ。


僕は男で、君は女性で。

赤くなってる君が、漸く意識してくれたのだと知って、今はそれだけで幸せだった。



「ねぇ、いつまでこのままなの?」

「んー?いつまでかな」

「もう!恥ずかしいから離して」




‥‥‥あと少しだけ僕の腕に閉じこもっていて。

元旦にやって来た、最愛のサンタさん。








明けましておめでとう。

君がずっと笑顔で居られますように。



 


 
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