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「友達の子供が四歳の女の子でね、すっごく可愛いんだ」

「ああ、それで試食なのね。四歳のレディのお口に合う甘さか見て欲しいんだ?」

「うん‥‥‥ありがとう」



俯いて口元で微笑を浮かべる流山くんは、いつもと違い少し逞しく見えて‥‥‥少しだけ、ドキドキした。



「少し歩くけど」



彼が言った通り、徒歩十分ほどで着いたマンションはシックで上品な外装で、周囲に溶け込んでいた。


エレベーターを降り部屋まで誘導する流山くんの後ろ姿を眺める。

綺麗で何処か可愛い顔ばかり見ているからか。
こうして見ると、なんてスタイルがいいんだろうって感心した。
背は私より頭一つ高く、引き締まった身体は華奢に見えがちだけど、それは顔が幼さを残しているからだと改めて思う。



‥‥今更だけど、彼は男の人なんだ。
ノコノコと部屋に付いてくる警戒心のない私を、彼は嘲笑ってないだろうか。
唐突にそんな心配をし始めてしまった私は、本当に今更何を言ってるんだか。











流山くんの家に着いたら、日付が変わるまで後十分。


「急がなきゃ。桜井さん、グラス出してもらっていい?」

「いいよ。ここに入ってる?」

「うん。ありがとう」



素早く用意されたケーキと冷蔵庫で長い間眠っていたと言うワインが並んだ時、日付が変わるまで残り五分だった。

日付が変わっても、クリスマスはクリスマス。
私達は恋人でもなんでもないんだから、別にイブでなくとも関係ない。

‥そう思ったのはずっと後になってからで、この時は「イブ」に拘っている彼に釣られていた気がする。



「Merry Christmas!」



乾杯したワインを一口飲んで。
チョコケーキはしっとりと甘く、口の中でゆるゆると解けてゆく。

きっとお店でも、こんなのは食べられない。



「‥‥すっごく美味しい!」

「本当!?良かったー。今度番組で使おうかなって思ってるんだよ」

「いいよ、絶対。製作会議もスルーして採用されちゃうかも」

「あはは、それは凄いね」




並んで座ったソファー。

間に一人座れる空間は、ただの仕事仲間だった今までとは違う気がする。
仕事仲間だったらきっと、向かい合わせに座るもの。

敢えて言うならこれは、偶然のタイミングが近付けてくれた『友達』の領域。
話すことで今、発見した共通点。
それが流山詩紋という人間を、身近に感じさせてくれた。




「流山くん、聞いていい?」

「うん」



他愛ない雑談の合間に、いつの間にかデジタル時計が25日を表示していた。




「どうして後ろ姿で私だって気付いたの?」



思い切った質問だけど、彼からすればどうでもいいような。
それでも聞きたかった。



帽子を被っている私は、ラフなジーンズと普通のコート。中は白いセーター。
ご大層な芸能人オーラを纏ってないし。
どちらかと言えば、流山くんの方がオーラある位。

『‥‥あれ?桜井さん?』

誰一人として気付かなかったのに。
気付かれないようにしていたのに。
あの時、見つけてくれて嬉しかった。すごく。




「分かるよ、桜井さんだから」

「そう?皆素通りして行ったよ。私だって分からないようにしたもの」

「でも、僕は見つけられる自信、あるよ」

「‥‥‥ふぅん。凄いね」



どう答えていいのか戸惑ったから、視線を下に向ける。
毛足が長い絨毯を意味も無く眺めた。

そうしなきゃ顔が熱いのが気付かれてしまうから。

流山くんは、どうしてこうも意味深に取れる発言をするのだろう。
誤解されたら困るのは、彼なのに。






 



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