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クリスマスイブは、大きなツリーと
「Merry Christmas」と描かれたキラキラ眩しいイルミネーションと、
サンタの衣装を着たタレントの皆さん


‥‥に、混ざって生放送。
バラエティ番組の聖夜スペシャルは、ドタバタと終わった。


毎年、この日に仕事がある。
有り難く思いながら、一抹の寂しさを感じるのは栓無き事。

彼氏と過ごした事なんて、生まれてこの方一度もなかった。



「恋!お疲れっ」

「お疲れ様。何だか久しぶりだね」

「前は毎日顔を合わせたのにさ。やっぱりグループとソロは違うね」



収録中に何度も目を交わした元メンバーの子が、元気良く声を掛けてくれた。

まぁ、お互いソロ活動に転向したんだから、会う事も激減したのは当然。
元メンバーで、私が卒業してすぐに卒業した彼女と会うのはかれこれ一年ぶり。


「え?まだ続いてるの?」

「しーっ!事務所には内緒なんだから」

「ごめんごめん‥‥‥じゃぁ、これからデート?」

「うん。迎えに来てくれるの」



もう五年越しの付き合いなのだと彼女は笑う。
以前チラッとだけ噂になった某ロックバンドのギターの彼とは、ずっと続いているのだと。

世間には秘密の恋なのに。
言えない関係は時に大変な筈なのに。
それでも幸せそうに笑う彼女に、何故か嫉妬を覚えた。






いいなぁ。私も恋がしたい。







彼女とは「またメールするね」とメアド交換をした。


それから先輩方の楽屋を回って、テレビ局を出たのは22時。

マネージャーに送って貰うのを、今日は遠慮する。


局から徒歩で少し行くと、そこは繁華街で、イルミネーションが綺麗なクリスマス景色。

今日はイブの夜。
だからなのか。

寄り添うカップル
飲み会帰りらしき集団
聖夜に愛を歌うストリートバンドの男の子達と、ファンらしき女の子達


賑わう街に私は浮いてるように感じた。



「綺麗‥‥」



海をバックに大きなクリスマスツリー。
金と銀と。時々色を変えて光るライトが、夜景に浮かび上がっていた。


人工的な明かりなのに、何故か暖かく感じる。
木枯しが吹いてる事すら忘れて、暫くその場でツリーに見惚れていた。




髪を三つ編みにして、帽子を目深に被って。
おしゃれもしていない普通の格好の私。

桜井恋だと誰も見咎めることがない。








‥‥誰も、私だと気付かない。誰も‥‥‥






「‥‥あれ?桜井さん?」

「流山、くん‥‥」


呼ばれるまま振り返れば、驚いた表情の流山くんを見つけた。


「仕事終わったの?マネージャーさんは?」

「あ、うん。今年はここのツリーを見てなかったから、先に帰ってもらったの。流山くんは?」

「僕も同じ。ここから毎年ツリーを見てたから」

「へぇ。同じね」

「‥‥‥うん」



柔らかく笑う彼は、何だか優しい眼をツリーに向けていた。

愛しそうに、思い出に浸るように。


その柔らかさにほんの少し引っ掛かりを覚えるが、小さなそれはすぐに消える。



「あの、桜井さん」

「なに?」

「これから時間‥‥‥ある?」



時計を見ると23時30分。
ああ、もうこんな時間なの。

明日の仕事は夕方からで、時間があるといえばある。
でも‥‥‥と躊躇したけれど、続く彼の言葉であっさりと決まった。



「クリスマスに市販のケーキというのもどうかって思って、チョコケーキ焼いてみたんだけど、試食する人がいなくて」

「それってこの前言ってたやつ?」

「うん。明日の夜にね、友達の家でパーティーするんだ。上手く出来たら持っていこうかって思ってたから‥‥」




今夜、桜井さんに会えてよかったよ。



そうじゃないのに、別の意味に捉えそうになって慌ててしまった。
試食係って意味なのに。



ライトに照らされる横顔に「そんな事なら任せてよ」と答えたのは、純粋にケーキが食べたかったから

‥‥‥と、思っていて欲しかった。





 



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