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ガイは絶句していた。衝撃的な光景を目の当たりにしたが故に、思考回路がぴたりと動きを止めてしまったのだ。
「あっ。……どうですか、ガイ?」
少し前から『ガイ』と呼ばれるようになって、いつもいつも頬が緩んでしまう。ルークは呼び捨てであるのに、どうして自分は『ガイさん』なんだろうと、密かに悩んでいたから。
けれど今ばかりは、でれでれと緩めている場合ではなかった。目の前の彼女は、到底見過ごすことができない格好をしている。
「……ヒナ、それは」
「お城の方が見繕ってくれたんですよ。可愛い服ですよねっ」
いや、可愛いのは服じゃなくて君──思わずそう言いかけて、喉の奥に押し込んだ。
丁寧な言葉遣いと無垢な微笑。少し思い込みが激しいところもあるが、殺伐とした戦場に咲く一輪の花のように可憐なこの少女は、ヒナ。
ガイが廃墟で見つけた、年下の女の子。今は両想いとなって、恋人という間柄となった。
「…………」
じ、っとご機嫌な様子のヒナを眺めて、これはちょっと……と苦笑いする。
決して馬子にも衣装とか、そんなことが言いたいわけではない。むしろ──似合いすぎている。
「ちなみに、後ろはこうなっているんですよ」
くるっと後ろを向かれて、ガイは愕然とした。
「……なっ」
前から見れば、可愛らしさを追求したような裾がふんわりとしたワンピースなのだが、後ろは──大きく開いていて、白い背中が露わとなっていた。
くっきりと浮かび上がる、色香漂う肩甲骨。
これくらい肌を露出させた衣装を纏う者は、決して珍しくないはずなのに。鼓動が激しく胸を打つと共に、抵抗が生まれた。
「ひゃっ!……ガイ?」
「ごめん、ちょっと……こっちに来てくれるかな」
城内の廊下では、いつ誰が通りかかってもおかしくない。一刻も早く移動しなければと、やや強引に客室へと連れ去った。
豪奢なベッドの真ん中にちょこんと座って、ヒナは困惑げに俺を見上げる。
「……どうしたんですか?」
ヒナが解らないのも無理はないと思う。彼女の中の自分は、きっと大人で、穏やかで寛容だと思っているだろうから。
本当は、余裕なんてこれっぽっちもないのに。
「ヒナ、すごく似合っているよ」
「!本当ですかっ」
にこりと笑いかけると、ヒナは嬉しそうに顔を綻ばせる。
「ああ。あまりに可愛いから、隣を歩くのが誇らしいくらいだ」
それはどこも間違っていない。真実だった。
でも、もうひとつ言わなければならないことがある。
「だが……ワガママだとは思うが、できればこれは人前では着ないでほしい」
「えっ……」
ヒナは小さく瞠目した。戸惑った様子でワンピースに目を落とす。
「……どこか変、でしたか?それとも、私には高価過ぎたんでしょうか」
「いや、違う。そうじゃないんだ」
傷ついた表情をしてほしくなくて、ガイは強く否定した。
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