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二月といえば、恋人たちが浮き足立つ行事がある月だ。
ずばり、バレンタインデー。恒例行事には無関心なひなであるのだが、今年は別だ。
「んー、しくじったなぁ」
ひんやりと冷たい空気が充満する廊下をとぼとぼ歩きながら、ひなはぽつりと零した。
委員会や部活動が盛んなこの学校では、放課後になると特別教室が集まるこの校舎は人気がなくなる。先生までもが普通教室が並ぶ、別校舎に向かってしまうためだ。
そんな場所に何故ひながいるのかというと、難儀な性格をした恋人を待っているからだった。
ひなの恋人、毛利元就は気難しい質で、気が散るから近くで待つなやら、我が待っていろと言っているみたいではないかやらと小言をぶつけてくるのだ。
なんだかんだ言いつつも要はただのツンデレだと知っているひなは、不平不満を零さず、こうして散歩したりなどして時間を潰している。
ひなが呟いたのは、それとはまったく別の事柄だった。
「大丈夫だと思ったんだけど、さすがにこれは……だめかも」
ファスナーの開いた鞄からちらりと覗くそれに目をやって、はあとため息をつく。
「でも、買いに行く時間もお金もないしなぁ。ああ、なぜに開き直ったんだ、私……」
誰に聞かれる心配もないので、鬱々と独り言を零した。
「……何をぶつぶつ漏らしておる」
「はえ?……って、元就!?」
背中に呆れたような声が当たって、慌てて振り返る。
廊下の中心で腕組みをしているのは、すっきりとした顔立ちの青年。端正なそれを不愉快だといわんばかりに歪めている。
「は、早かったね。もっとかかると思ってたんだけど」
「今日はポスター貼りだけだったからな」
つかつかとやってきた元就は、ひなを抜き去って、下駄箱の方へ向かう。
「風紀委員って、そんなこともやるんだ?大変だねー」
「……保健委員はどうなのだ?」
「うーん、あんまり?保健室当番とかもないし、催しがあるときだけだよ、忙しいのは」
「この暇人が」
容赦ない言葉が返ってくるが、いつものように笑って流した。
さて、とひなはファスナーの隙間に視線を落とす。これをどうするべきか。
「……そういえば、貴様の友なる娘が落ち着きのない様子で、職員室の前に立っておったが」
「かすが?あー、うん。多分、上杉先生に用があるんだと思うよ。かすが、先生のこと大好きだから」
「何やら小さな箱のようなものを持っておったが」
「んー、何だろうね。ペンケースかな」
「その箱にはリボンがかかっておったが」
「制服のリボンが外れちゃったのかな?」
「……貴様は馬鹿か!」
声を荒げられて、ひなは動きを止める。
「え、なに?何でそこで怒りだすの?」
「むっ……何でもない」
元就はしまったという顔をして、黙り込んでしまった。
いきなり怒りだすのは珍しいことではないが、今日の彼は何だか変な気がする。
「えーと……もしかしたらバレンタインデーだから、待ってたのかもね」
「っ!」
元就の肩が小さく跳ねた。ひなの目はその変化をしっかりと捉えており、ますます不審だと思う。
「どうしたの?元就、ちょっと変だよ」
「…………貴様は、どうなのだ?」
「え?」
「貴様は、……バレンタインとやらを気にしておらぬのか?」
「……あ」
ちらちらと視線を向けられて、ひなははっとした。鞄の中で主張している存在を思い出したのだ。
「……一応、用意はしたけど」
「!そうか」
「でも、いろいろ失敗しちゃったから、あげるのよそうかなあとか思っ」
ファスナーの間から僅かに覗くそれに気づいたのか、元就は素早くひなの鞄からラッピングされた包みを引ったくった。
「あっ!元就!」
「我のために用意したのだろう!仕方ないから貰ってやろう!」
「……ええ」
と言いつつも、元就の頬は赤かった。
放課後バレンタイン
(私の手作りだから、きっと他より劣るよ?いいの?)
(ふん、貴様のチョコが食えるのは我くらいだ)
(それ、クッキーだよ)
(……クッキーだろうが同じことだ)
(ふーん……ありがと、元就っ)
(…………)
終
リオちゃんが、リオちゃんが誕生日のお祝いに書いてくれた元就さんですー♪
学パロいいですね!元就さん、ツンデレ妖精さんでかっこ可愛いとことか好きすぎる‥!!
リオちゃんの元就、可愛いです。
バレンタインなんて気にしてない風にしながら実は特定人物のチョコの行方だけ気にしてるとか、鞄からさっさと抜き取るとか、可愛い(可愛い連発)
本当にありがとうございました!
大好きですっ!!