(1/2)




お母さんのカレーを食べて、さあテレビを観ようと席を立った矢先に飛び込んだ、異世界。

ようやく世界に溶け込んできたと認識したとき、夢みたいなことが起こったのです。








「ルークううううっ!」

「──うわっ!?」

ひとは幸せの絶頂に達すると、その喜びを誰かに伝えたくなるものなんです。

狂喜乱舞の思いでルークに突っ込むと、勢いを殺しきれずに二人して床に倒れる。

「いてっ!?おいっ、ひな……」

「ルークルークルーク!伝わったんです、私の想い!ガイさんとりょっ」

思い切り噛んでしまった。ルークの胸に両手を置いて、顔を覗き込むようにして興奮気味に言葉を続ける。

「あのね、ルーク!私っ」

「わかった!わかったからちょっと落ち着けって!な?」

ルークの言葉なんて理解する前に、するりと頭から抜けていく。普段の私なら、大人しく耳を傾けている。けれど、今だけは。

「ルークルーク!聞いてくださいっ!私とうとう、ガイさんと両想いになったんです!」

「──本当か?やったな、ひなっ!」

意中のひとと仲良くしましょう同盟を組んでいたルークは、太陽のような笑みを浮かべて、まるで自分のことのように喜んでくれた。

私はその言葉に感極まって、詰まってしまった声の代わりにこくこくと頷く。

「ぐすっ……ほんとに、夢みたいですっ……」

涙腺が緩んでしまって、ルークの姿が霞んで見えた。ふにゃりと顔を歪めて喜びに肩を震わせる。

「──あ!その……水を差すようで悪いんだけどさ、」

「?……ルーク?」

きょとんとしてルークを見下ろす。

潤む視界に映るルークは困ったように眉を下げていて、目で何かを訴えている。

と、そのとき、ひょいと私の身体が浮いた。

「はひゃっ……!?」

両脇に手が差し入れられて、幼子にするように抱き上げられている。私はびっくりして、ぱちぱちと瞬きをした。

「えーと、ひな。何してるのかな?」

「ガっ……!」

「ガイ!」

私とルークの声が重なった。

「ガイさん……っ!」

この大きな手のひらの温もりがガイさんのものだと認識した途端、驚きとは違う感情で心臓がバクバクした。真っ直ぐ前を向いたまま、振り返れない。

「お、おも……っ」

「ん?」

「重いですから、おろ、下ろしてくださ、」

「ひなは軽いぞ?」

そんなわけないと心の中で叫ぶ。声には出せなくて、ふるふると小さく首を横に振ることしかできないんだけど……

心中を察してくれたのか、ガイさんはくすりと笑って、私をそっと地面に下ろしてくれる。

おそるおそると振り向くと、優しい顔をしたガイさんと視線が絡む。私の目尻に涙が溜まっていることに気づくと、指のはらでそっと拭ってくれた。

「……ガイっ、違うから!俺たちは別にっ」

「ルーク。わかってるよ」

起き上がって何やら慌てているルークを制して、ガイさんが笑みを向ける。……相変わらず、二人は仲がいいです。みなまで言わずとも、ですか。

(……あ)

知らずやきもちを焼いていることに気づいて、はっとした。

私、わがままになってる。協力してくれてたルークに、こんな感情を抱いてしまうなんて……

「ひな?」

「ふぁ、はいっ!」

軽い自己嫌悪に陥っていた最中、ぽんと肩を叩かれて、素っ頓狂な声を上げてしまった。

「少し外に出ないか?」

視線を彷徨わせると、ルークがベッドの縁に腰掛け、こっちを見ている。行ってこいよ、と言われている気がした。

「よ、喜んで!」

舌を噛みそうになりながら返事をすると、ガイさんとルークが同時に笑った。

……やっぱり仲良しです。








自然な所作で手を差し出される。

「どうぞ」

「あ、ありがとう、ございます」

ガイさんの手を借りて、段差を越える。

戦いのときはとにかく俊敏で、目にも留まらぬスピードで敵を翻弄し、倒していくガイさん。

けれど普段は物腰が柔らかで、とても紳士的。ナタリアさんと同じで、気品が漂っています。

のどかな小道を二人並んで歩く。とても小さな村だから、地面は舗装されていない。けれど転ばないのは、ガイさんが気を遣ってくれているから。

(……かっこいいなぁ)

隣のガイさんをちらと盗み見る。

精悍な顔立ち。見つめるだけで胸が高鳴って、どうしようもなく好きなんだと自覚する。

「……あのな、ひな」

「はいっ!」

前を向いていた目が横にずれて、ばっちりと視線が重なってしまった。見ていたの、ばれちゃったかなぁ……

「…………」

ガイさんは何やら神妙な顔をして、咳ばらいをひとつした。

ただならぬ雰囲気に、ぎくりとした。

……もしかして。見破られているのだろうか。

「……前にも言ったが」

「っ、ごめんなさいガイさん!」

「え?」

思わず言葉を遮って、動かしていた足をとめ、謝罪とともに頭を下げた。

ガイさんの声は驚いていたけれど、ぎゅっと目をつむって、そのままの状態で言葉を続ける。

「自分でもわかってるんです!わがままになったって…………ルークにまでやきもち焼いちゃって、ほんとにもう……私ってば、なんて……!」

「は?……ひな?」

「……え?」

少し間を置いて、今度は私が聞き返した。だって、ガイさんの声が明らかに困惑している。

「…………ええと、違い、ました?」

頭を戻して、小さく尋ねる。

「……ぷっ」

引き攣った笑みを浮かべる私を面白いと思ったのか、突然ガイさんが笑い出した。

「はははっ……悪い、つい……!」

「……あの?」

肩の力が抜ける。どうやら呆れられているわけではなさそうだ。

何と聞いたものかと迷っていると、ガイさんにくしゃくしゃと頭を撫でられた。見上げる眸は明るい。

「俺が言おうとしていたのは、そんなことじゃないよ」

「え?」

「あまりルークと二人きりにならないでくれ。……そう、言おうと思っていたんだ」

「あ……ああっ、」

そういえば、想いが通じ合ったあとに、そんなことを言われた気がする。有頂天になっていて、あまりよく覚えていないのだけれど。

「そ、そうです……今思い出しました」

「姿が見えないと思って捜していたんだが……焦ったよ。ようやく見つけたと思ったら、ひながルークを押し倒しているんだもんな」

「お、おしたお……っ!」

ち、違います!そう言いたくて咄嗟にガイさんに縋り付くと、わかってる、と穏やかな声が耳を擽った。

「そんな気がないことくらい、ひなを見てればわかるよ」

「はいっ!私はガイさん一筋ですから!」

言いきってから、顔が熱くなった。わ、私っ、人通りが少ないとはいえ、村の往来でなんてことを……!

「ははっ、ありがとな。嬉しいよ」

ガイさんは目を細めて、また頭を撫でてくれた。ガイさんにそうされると、すごく幸せな気持ちになる……

「それにしても。俺もリオも、まさかルークに嫉妬するとはなぁ……」

「……う。だ、だってルークは、ガイさんとずっと一緒にいたから、すごく仲良しで……」

「ひなだって仲良しじゃないか。ルークのことは呼び捨てで」

「ティアだって呼び捨てですっ」

「彼女は女性だろう?」

鋭い切り返しにうっと言葉に詰まる。

確かに、男のひとで呼び捨てにしているのはルークだけだけど、それは呼びやすいからであって……他意はないのに。

(…………あっ、)

そこまで考えて、私はようやくガイさんの望みに気づく。

もしかしてガイさんは、私に呼び捨てで呼んでほしいのだろうか。

「…………」

困ったように頬をかいているガイさんを真っ直ぐに見つめて、私は覚悟を決める。

「……えっと。ガ、ガイ?」

「っ!」

少し斜めを向いていたガイの顔が、バッと私の方に向けられて。程よく焼けた頬がほんのり赤く染まる。

「……ガイ、顔が赤いです」

「あー……そりゃあ、まあ。嬉しいからな」

ガイの告白に私は嬉しくなって、その腕に思いきり抱き着いた。

またひとつ、ガイのことを知ることができました。








駆け足では無理だけれど、








(ルークルーク!聞いてくださいっ!)

(……わかってないぞ、リオ)

(呼び捨てで呼んだら、ガイがっ……)

(っ!?ストップ、ひな!)


恥ずかしいから、ルークには言わないでくれ!


end.


→next
BACK
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -