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倒れていたのは、廃墟と化した邸の中。
昏々と眠り続けていた私を見つけてくれたのは、貴方だったんです。
あの日のことはよく覚えている。
母のカレーを食べて、さあゆっくりとテレビを観ようと席を立った瞬間、睡魔が私を襲った。
そして眠りに落ちた私が目を覚ましたときには、私を取り巻くすべてが変わっていた。
「ううー……なんとか片付きましたー」
最初は怖くて怖くて仕方なかったモンスターとの戦闘も、ようやくまともに戦えるようになった。
ロッドで打ち据えるのも、譜術を唱えるのも慣れてきて、少しはみんなを援護できるようになったと自負してます。……本当にちょっぴりなんだけどね。
「ヒナー、ちょっとここ、治してくれねぇか?」
「あ、はいっ。どこですか?」
緋色の髪の男の子、ルークに呼ばれて振り向く。視界に映ったのは、掲げられた擦りむいたのであろう右肘。わぁ、血が滲んで痛そう……。
「ちょっと待ってくださいね。…………ヒール!」
ぱぁっと光がロッドから放たれて、傷が治っていく。
最初は自分にこんな力があるなんて信じられなくて、おっかなびっくりだった。でも今となっては慣れたもの。
「はい、これで大丈夫ですよ」
「ありがとな、ヒナ。助かったよ」
「いいえ。でも、私よりティアの方が良かったと思いますよ?私の師匠はティアですし」
当たり前のことを言ったつもりだけど、ルークは複雑そうな顔をしている。
「いや、でも……ヒナに治してもらいたかったんだよなぁ」
「……またティアと喧嘩したんですか」
うっ、とルークが言葉を詰まらせる。ああ、図星みたいです。
「喧嘩っつーか、なんか話しかけづらいんだよなぁ」
「……その気持ちは分からなくもないですけど」
ちら、と斜め前に視線を向ける。
其処には金糸の髪が眩しいガイさんとナタリアさんがいて、楽しげに談笑している。ガイさんは女性恐怖症だから、一定の距離は置いているけれど、私の心はずうんと沈み込む。だって、お似合いなんだもん。
「ふはぁぁ……」
思わずため息をつくと、窺うようにルークが顔を覗き込んでくる。
「……ヒナも一緒みたいだな」
珍しくも鋭いようで。はい、と素直に頷きを落とした。
「……そうです。ルーク、同盟を結びませんか!」
「は、同盟?」
「意中のひとと仲良くしましょう同盟、です!」
ぽかんとしているルークの両手をがっちり掴んで、ずいずいっと迫った。
私はあのひと──ガイさんが好き。最初に私を見つけてくれたのはあのひとで、慣れない環境に四苦八苦していた私に一番親身になって接してくれたのもまた……あのひとだったから。
ルークはガイさんと、私はティアと仲がいいから、なかなかの名案だと思うのです。
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