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「……うん、ひなが一番だ」
「……え、何がです?」
突然、佐助にそんなことを言われて、私は首を傾ける。
「うちのひなが一番可愛い」
「……っ!」
ぼぁ、と頭の天辺から湯気が昇りそうだった。にんまり笑顔で何を言い出すのやら。
覗き込むようにして見つめられると、否定の言葉さえも出てこなくなってしまうのだ。仕方なしに俯いて、頭をふるふると必死に振った。
「そんなとこが可愛いんだけどねー。あ、どーも」
「…………」
「ひな、団子とお茶」
三色団子が視界に映り、そっと顔を上げると、優しい笑みで差し出される。
「あ……りがとう」
手が少し触れ合うだけで、鼓動が煩くなる。気をつけて、とお茶も傍に置かれて、私はこくりと頷く。
「お土産、幸村に買っていってあげたいです」
「そうだねー、旦那、団子好きだもんねぇ」
武田の若き虎は、本日は父様と戯れている。殴り合いを目撃した当初は怯えて泣いて、佐助を困らせたものだ。
「そうだ。ひな、」
「なんです……」
振り向いて、ぴしりと固まってしまう。
にこにこと悪戯っぽい笑みを浮かべた佐助が差し出しているのは、頬が蕩け落ちてしまうほど美味なお団子だ。
つまり、食べさせようとしている、わけで。
「ベタだけど。あーん、して?」
……絶対に態とだ。
私が困ると知っていて、優しい笑みで団子を近付けてくるのは反則だと思う。
それに、こういうことは女性から男性にというのが、一般的な気がする。
「……佐助ぇ……」
泣きそうになりながら佐助を見上げるけれど、前言を撤回する気は更々ないらしく、依然として状況は変わらない。
人前で、あーん、だなんて。そんな、そんな恥ずかしいこと……
「……あー、ん」
……やってしまった。佐助の無言の圧力に耐えきれなくなって。
「……あう」
恥ずかしさからぐったりとして佐助に凭れかかると、頭上からくつくつと笑い声がした。
「ほんっとにひなは可愛いよねー。もう俺、どうにかなっちゃいそう」
「……からかわないでください」
恥ずかしくて顔が上げられない。ぼそぼそと独り言のように呟くと、またしても笑い声。……絶対に楽しんでる。
時たまこうやってからかわれてしまうけど、優しくて温かいのを知っているから、こんなにも私は佐助のことが好きなのだ。
「……次はひなの番だよ?」
「っ、えええ!?」
「ね?」
飄々と笑う彼には、やっぱり逆らえなくて。
恥ずかしさを堪えて、震える指で団子の串を掴んだ。
君、最愛のひと
(ただいま戻りましたー!……幸村、また頬が腫れてます。大丈夫ですか?)
(おお、姫!心配無用、ただのかすり傷でござる!)
(ちょっと旦那、俺の姫様に近付きすぎ)
(んななな!佐助っ、ははは破廉恥な物言いはやめろ!)
(ほんとウブなんだから。ほら、お土産ですよ)
終
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