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「わぁ、すごい人ですね……」

お館様の娘である私は、一応“姫”という身分から最近まであまり外には出してもらえなかった。だからこの騒がしさが新鮮で、きょろきょろと辺りを見回してしまう。

「ひな、危ないよ」

「あ、」

繋いだ手が離れ、代わりに肩を抱き寄せられる。

つい先ほど私が歩いていた辺りを、帯刀した若い男性が通り抜けた。

「……ありがとう」

「ん、どういたしまして」

なんてことないという風に佐助は微笑んで、そのまま肩を抱いて歩き出す。その横顔は凛々しくて、胸がきゅん、と締め付けられる。

城下では素性を悟られぬように、佐助は私のことを名で呼ぶ。

呼ばれ慣れていないこともあるけれど、彼の低い声で名を紡がれると鼓動が跳ねて、頬に熱が集まる。恥ずかしい、でもすごく嬉しい。

城ではお転婆姫、なんて呼ばれている私だけど、照れると私は借りてきた猫みたいにおとなしくなってしまう。ぎくしゃくと歩を進めていると、ぷっ……と佐助が吹き出した。

「ひな、手と足が一緒に出てるよ。可愛いからいいけど」

「ええっ……!き、きをつけ、ます」

耳元で囁かれると、身体が勝手に反応して震えてしまうから大変だ。佐助のことだから、あえて行っている節があるのだけれど。

「ほら、ひな。着いたよ」

「あっ……!」

肩を掴む力が強まったと思えば、くるりと身体の向きを変えられる。

古風な雰囲気を醸し出すこじんまりとしたその店は、幸村が絶賛する団子屋だ。

付近に甘味処はいくつもあるのに、客は途切れることがない。狭い店内はすぐにお客さんでいっぱいになってしまう。

「手前の席が空いてるよ。はい、座って座って」

すとんと席に座らされて、お人形のようにじっとしている間に、佐助は忙しなく動いているおばさんに注文を済ませて戻ってくる。

「おっ待たせー」

片手を上げながら席についた彼に、唇に弧を描いて応える。

「……うわぁ」

団子が来るまでは特にすることもないので店内を見回してみたが、お客さんのほとんどが年若い男女だった。あとは家族連れや旅人さんが何組か。

城ではまず見られない光景なので、ついつい眼がいってしまう。仲睦まじそうに団子を食しながら、たわいない話に花を咲かせる。……すごく、倖せそう。



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