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もしかすると。私は何か間違えてしまったのかもしれない。
「えと、その……」
「ん、……ああ、心配するな。ルークにはもちろん言わない。それとも、」
やっぱり、俺じゃ頼りないか?──そんなふうに言われて、頭がぐらぐらした。
なんてことだ。──私は、間違えてしまった。
ガイさんは勘違いしている。勘違いして、私のために動いてくれようとしている。
理解した途端、私は泣き出しそうな心持ちになった。違う、違うのに。
言葉なく見上げると、ガイさんは困ったように頬を掻いた。それでも口元は、優しい笑みで彩られている。
「……違う」
「……ヒナ?」
「違いますよ、ガイさん……私が好きなのは、」
──貴方なんです。
消え入りそうな声で呟いて、私は視線を落として俯いた。
ようやく想いを口にできたのに、胸にわだかまるのは悲しさばかり。
ガイさんは私がルークに好意を抱いていると思っていた。そして、協力しようとしてくれた。
……それは、私のことを何とも──ううん、妹のように思っているからなんだって感じた。『女の子だもんな』……その言葉がいい証拠だ。
「…………」
「…………」
ガイさんは無言。私も無言。……落ちる沈黙が痛くて、みじめな気持ちになって。この場から早く逃げ出したいと思った。
「……ごめんなさい」
それだけを口にして、さっと踵を返した。
部屋でいっぱい泣いて、落ち着いたらルークに同盟破棄を申し立てよう。ルークは何も悪くないんだから、ちゃんと謝らなきゃ。
「──待った!」
がしっ、と手首を掴まれて足が止まる。
制止をかけたのはガイさんで、その強い声に堪えていた涙がぽろりと零れた。
「……なっ、……ですか」
「っ!──ヒナ、泣いて……ご、ごめんっ!」
手首は掴まれたまま、もう片方の手で顔を上げるよう促されると、眦に溜まった雫をハンカチで優しく拭われた。涙のせいでガイさんの顔がまだよく見えない。
「だ、だいじょうぶ……私が勝手にフライングした、だけ……っ」
「好きだ、ヒナ」
「……は、い……?」
何の前触れもなく紡がれた言葉に、私は動揺した。
「え、ええと……?」
今のはきっと、聞き間違いだ。そうでなければ、意味合いが違う。
泣き顔はみっともないから、懸命に笑みを浮かべる。
「──はい、ありがとうございます。私も好き……ですよ」
「違う。そうじゃない」
「っ……!」
やめてください。そんな風に、期待させないで。
なにごとか言い返さないと、と唇を震わせていたら、頭に大きな手のひらが乗せられた。
「女の子として、君が好きだ」
「……っ……そんなぁ、うそぉ……っ」
その囁きは、慈しみと愛情を確かに含んでいて──ようやく察することができたのだけれど、私の唇は真逆の言葉を紡ぐ。
「嘘じゃないよ。君が好きなんだ。……ずっと前から」
ガイさんは頬をゆるめる。嬉しいよ、不意に漏れた言葉に私は彼の胸に飛び込んだ。
「わたっ、私も……好き、なんです……っ」
「ああ。良かった、ルークじゃなくて」
相手がルークなら、諦めるしかないからな。
そう呟いて微苦笑を浮かべるガイさんに、私はまた涙を零すのだった。
誰よりも大人な貴方
(ルークとは意中のひとと仲良くしましょう同盟を結んだんです)
(……ああ、なるほど)
(勘違いさせてしまってごめんなさい。でも私はガイさん一筋ですから!)
(それは俺も同じだよ。だから……あー、その……あんまりルークと二人きりで話さないでくれな?)
(!はいっ)
end.
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