はじめに
この話は連載「飛天」の設定で、「もし幸村と結ばれたら」という仮定ED後の話になります。




あのね幸村と呼ぶと、しっかり眼を合わせてくれる。

私の言葉を聞き逃すまいと耳を傾けてくれる。

ひとつひとつ、丁寧に答えてくれる。


その槍のように、真っ直ぐ、私を射抜くあなたに捕らわれた。










「離縁ね、幸村」

「ぐ、ふぅっ!」


味噌汁を口に含んだ瞬間を狙って放った一言はクリーンヒットしたようだ。
咳き込みながら噎せ返るという、素敵な反応を見せてくれる。
ちょっと面白い。


「あららー、言われちまったねぇ旦那」

「佐助は黙っておれ!」

「はいはいっと」

「桃殿っ!?り、りりえ、離縁とは、ど、どういう事でござるか桃殿っ!?」


言葉が詰まり過ぎだ。


「どういうもこういうも、幸村のした事に対しての答えかな」


身に覚えがない?と尋ねる。


「うっ‥‥‥ない」

「あら、眼を逸らした。疚しいことしてるって証拠でいいのね」

「ちちちっ、違うっ!」

「ふぅん。じゃあこっち見て?」

「‥‥‥っ」

「幸村?」


椀を膳に戻し、膝の上で握った拳が震えている。
いやもう、全身が震えている、恐怖じゃなくて憤怒に。
真っ赤な顔して俯いて、汗まで掻いちゃって。


「ん〜‥‥‥桃ちゃん」


いつもならこんな時「早く食べなよ旦那」と急かす、食事の世話係さんがひそひそと声を掛けてきた。


「俺様ちょっと席外すわ。夫婦喧嘩は忍も食わないってね」

「猿も食わないの間違いでしょ?」

「それひっど!‥‥‥最近桃ちゃんは俺様に容赦ないよねぇ。昔は可愛かったのに」


そりゃそうだ。
昔の私は初恋の相手に一生懸命だったもの。


「昔と同じだったら幸村が嫉妬するの。あ、でもそれいいかも。嫉かさせちゃおうかな」

「やめて桃ちゃん、俺様が可哀相」

「あら、佐助さんも共犯でしょう」

「共犯?どっちの?」

「さあ?」


ひそひそ、ひそひそと小声で会話。
普段の幸村なら見過ごさないこの距離も、どうやら心此処に在らずらしく気付いてないようだ。

‥‥‥と思っていたら、飛んできた箸が私と佐助の間を通過して背後の襖に突き刺さった。


「ちょっ旦那っ!?」

「桃殿に近付くな」

「もう‥‥‥ほんっと俺様可哀相」


がっくりと項垂れる背中をぽんぽんと叩いて宥めてあげたかったけれど、そんな事すればそこで真っ赤になってる「馬鹿」な人が切れそうだ。

仕方ない。
この辺で一旦引き下がっておくか。


「佐助さん、後で私が片付けておくからもういいよ。ありがとう」

「了解。じゃ、後はよろしく〜」


佐助さんは手を振ると音もなく消えていった。
そうして室内には私と幸村だけ残された、けど。

 
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