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「‥‥土御門家は新たな時を刻む。郁章が生まれた事がその瑞兆。そして、そなたが異世界から京に来た。郁章に嫁ぐ為に」
(私‥‥京に‥‥)
何の為に来たのだろうか。
京に来て、
陰陽術に出会って、
郁章に師事して‥‥‥‥
「安倍晴明の転生者に、その力を返す為にそなたは京にやって来たのだ。泰明の娘」
郁章に力を返す為。
嫁ぐ為に京に来た。
郁章の、伴侶となる為に‥‥‥
(‥?‥‥‥ち‥がう)
「彼女が京に来たのは土御門とは無関係です」
もはや壁越しではない。
穏やかで、隠し切れない怒りを孕んだ声。
ゆきに纏わり付く重圧を払う、長刀の銀の軌跡。
「安倍も土御門も関係ない。ゆきは、僕の許嫁ですから」
強く手を引かれ立たされた、瞬間。
ゆきの全身を黒が覆った。
怨霊相手にすらこんな大技を使った事がないだろう。
迸る光を望美が剣を構えて集め、豪快にぶっ飛ばした。
濛々と上がる土煙。
瞬時に煙の中へ消えてゆく叔父の背を眼で追うと、清々しい大技にヒノエは賞賛の口笛を吹いた。
「‥豪快な姫君だね、お前は」
「ヒノエくん、それって褒めてる?」
「勿論。気の強いお前もいいね」
「あんまり他の女を褒めてると、ますますゆきちゃんには伝わらないよ?」
「‥‥‥」
あっさり痛いところを突かれ黙りこくれば、望美がにっこりと笑う。
それは兎も角、ゆきはどうなっているのか。
壊れた門扉の中へ、ヒノエも入っていった。
「神子、人の目にはここ、暗い?」
「うん。ちょっと暗いかな?」
「わかった」
呑気な白龍が呟くと、彼の手に光が生まれた。
それらは分散し、空中をふわふわ浮きながら辺りに散る。
「これでいい?」
「うん。明るくなったよ。ありがとう、白龍」
礼を言った望美が正面を見ると、弁慶が見知らぬ男に対峙していた。
九郎と景時がその少し後ろで、いつでも得物を構えられる体勢を取っている。
弁慶の腕は外套で良く見えないが、恐らくゆきは腕の中に居るのだろう。
それを確認して、望美はほっと息を吐いた。
(‥‥じゃぁ、あの人が土御門家当主‥?)
もっと歳を取った、意地悪そうな男だと思っていたのに。
とても弁慶と同じ歳の息子を持っているとは思えない、氷を思わせる若々しい姿。
(‥ゆきちゃんじゃないけど、京の人はイケメン率が高いとか思うよね)
龍神といい、八葉といい、平家といい、源氏といい、土御門家といい‥‥‥。
いつかゆきが「この世界に来て目の保養になってばかりだよ」と嬉しそうに言っていた事があった。
そして今、望美は激しく同意している‥。
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