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「めぐれ、天の声
 響け、地の声
 ──かのものを封印せよ!」



直後、怨霊を包む浄化の光。

身体の内側が熱くなる感覚に眼を閉じた。



「お見事です、神子殿」

「あ、頼久さん。皆のお蔭です」

「いいえ。神子の清らかな光が怨霊達を救ったのです‥‥‥穢れなき神子の力のお蔭でしょう」

「永泉さん、そんな事‥‥」

「永泉、あんまりコイツを図に乗せるんじゃねぇよ。天狗になっちまうぞ?」

「天真くんっ!!」



雲間が晴れた後の、皆の笑顔が好きだった。



「   ちゃん、お疲れ様!」

「詩紋くんとイノリくんも。疲れたね〜!」

「あぁ、団子食いてぇ!」

「ふふっ。子供達は元気な事だ」

「じゃぁ、友雅さんはどうやって疲れを取るんですか?」

「私かい?そうだね‥‥麗しい花を愛でる事かな。神子殿のような可憐な花に、ね」

「友雅殿!神子殿が穢れますよ」

「鷹通‥‥‥君も言うね」



あなた達がいるから、一人じゃないから

私はいつでも頑張れた。



そして‥‥‥



「泰明さん、お疲れ様でした」

「疲労など感じぬ‥‥いや、身体が少し重く感じる」

「それを疲れたって言うんですよ」

「そうか」



あなたが傍にいてくれたから。


師匠さんの呪が解けて、人として生まれ変わったあなたは、けれどもう一度呪を掛けた。

私を護る為に、まだ力が必要なのだと。
だからまだ、顔の半分は呪いの証が残っている。

それでも一度溶けた呪は、彼に影響をもたらしていった。



「神子には怪我はないのだな」

「あ、はい。皆が守ってくれたから」

「‥‥‥そうか」



ほら、こうして優しく笑ってくれる。

高鳴る鼓動は正直で、その分だけ切なくなる。





私は恋をしてしまった。

でもこれは、何があっても言えない想い。



あなたが私を認めてくれたように、信頼してくれたように、私も信頼をしているだけなら良かったのに。

抱き始めたこの想いは、あなたには重荷になる。



「どうした、神子」

「泰明さん、京に応龍が戻ってきたら───」

「‥‥‥」

「花を、見に行きましょうね」



アクラムの企みを阻止して応龍を復活させたら、私は帰らなければならない。

私の世界に。あなたと別れて。



「‥‥泰明さんが、嫌じゃなければ‥」



だからせめて、一度だけ

思い出が欲しいの‥‥‥。




「‥‥‥私はお前のものだ、神子」



違うよ。
泰明さんは泰明さん自身のものだよ。
私の道具なんかじゃない。
そんな悲しい事、もう思わないで。




あなたの幸せが、私の願いなんだから‥‥‥。









笑顔

低い声

呪符を構える真剣な眼差し‥‥



「‥‥‥あ、きさん‥‥」



私は彼を愛していた‥‥‥



(───あれ?)



どうも違う気がする。
ぼんやりとしていて、上手く考えられないけれど。



(やすあき‥‥やすあき‥‥‥泰明‥‥?)



その名は確かに酷く恋しい。

愛しくて、会いたくて。

抱き締めて欲しい。

胸の中に切なさを宿す名前。



‥‥けれど、何故か違和感を感じていた。

『泰明』だなんて呼んだ記憶が殆どなくて、もっと違う呼称で彼を呼んでいたような‥‥。

そして、もっと。



(私が呼びたいのは、もっと‥‥違う人な気がする‥‥‥)



ゆらり、揺れる意識の中で、必死に頭を動かそうとする。
違う‥‥泰明じゃない。
逢いたい人‥‥‥。






『もう君を失えない。ずっと、僕の側にいて欲しい。
‥‥‥君を愛しています』




甦る、優しい声。










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