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‥‥子供。






弁慶に諭された時、自分がどれ程子供じみているか気付いた。



朝緋を抱き締めていた弁慶。


大人の女性らしい美は、ゆきがどんなに頑張っても手に入らない。

弁慶の隣に立っても尚見劣りする事のない美人の朝緋に、今まで堪っていたコンプレックスが一気に溢れ出た。



何も見た目で、弁慶がゆきを選んでくれた訳じゃない。



彼がくれたものは、そんな浅はかな想いなんかじゃないって、誰よりも知っていたのに‥‥‥。





自分から手を、離してしまった。




















「なんかね、もう頭ぐちゃぐちゃで、どうしていいかわかんない‥‥っ」

「此処は駆け込み寺ではないんだが」



‥‥全く聞いていないか。

頭を掻きながら、呆れきったように零す郁章の言葉は本当に聞こえてないらしく、ゆきは思いつめた表情で俯いたままだった。






早朝、しかも初夏の陽は早く昇るというが、その前に叩き起こされた郁章は機嫌が芳しくない。

それもその筈。
梶原邸から式をぶっ飛ばし、郁章の眉間に見事着地させた張本人は今、目の前で沈んでいるのだから。



「大体、長期間籠る必要があるとは言え、今日からだとは言ってない。私や当主にも準備があるだろう?」

「‥‥うっ、ごめんなさいっ」


明けやらぬ朝から、式に『今から行きます!梶原家に例の話よろしく!』と、それはそれは喧しい声を託して郁章の眼を覚まさせた。



その理由が痴話喧嘩とは‥‥‥。



「全く、彼らしくない」

「‥‥へ?」

「いや、こちらの話だ」



仕方ない。

今日から彼女を鍛えよう。


郁章は溜め息を吐くと、手にしていた札をぴしり、とゆきの頭に貼り付けた。



「ぶっ!‥‥って、キョンシー!?」

「では、今から修行を始めようか、ゆき」

「‥‥‥へ?」

「弁慶殿に宣言してまで修行がしたいとは、いい心がけだ。熱心な弟子を持って、師として嬉しいよ」

「‥‥や、あの、今すぐはちょっと‥‥気持ちが付いていかなく‥‥‥聞いてる?」



郁章の指がゆっくりと組まれるのを見て、ゆきは冷や汗を掻きながら後退った。

が、すぐに束縛呪をかけられ身体が動かなくなる。



物騒な方法でゆきを引き止めた郁章は、とても優雅に微笑った。







「古くは安倍晴明から伝わる、土御門家の秘術を伝えよう」









束縛呪を自分で振り切って、ゆきが神妙な顔で正座した。

それをすっきりした面持ちで見ながら、内心郁章は複雑な思いを抱える。





(‥‥彼も気付いたのかも知れぬ)



秘められたゆきの本質。

それを知っているのは、恐らく晴明の転生者である郁章だけ。

だが、何となくでも気付く者も居る。
恐らく彼もそうなのだろう。
そして、郁章の父もまた。



「‥‥厄介ごとは一つで充分だけどね」

「厄介ごと?って私?」

「ふふっ、よく分かっているではないか」

「‥‥師匠、傷心の可愛い弟子にかける言葉がそれですか」





呑気にぶうぶう文句を垂れているゆきは、未だ知らぬ。



土御門家の秘術を彼女に伝える、その意味を。










とうとう動き出してしまった







───土御門家








 












act15.強くなりたい

20090222




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