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強くなりたい。
ずっと、皆を守れる力が欲しかった。
守られるのは辛かった。
陰陽師になったのもその為で。
だけど今は、力よりも心が欲しい。
何があってもあなたを信じられる強い心が
揺れないでいる自信が
‥‥欲しいよ。
act15.強くなりたい
二度目の出逢いは、京。
はらはらと舞う桜を背に腕に、肩に。
まるで花に愛されているようで、彼は恐ろしいほど綺麗だった。
その時見惚れたのは、彼が運命の人だったからかもしれない。
『私はお前の道具だ』
思うままに命じれば良い。
道具の意思などお前が案じる必要はない。
表情も変えず淡々と紡ぐ。
その時私の中に沸いたのは怒りより、哀しみ。
彼の事、何も知らなかった。
彼がどのように生まれ、何を思い、何の為に生きてきたのか‥‥
知らない。
でも、知りたい。
彗星の様に現れて、一瞬で私の心を掻き乱した彼の事を、私は───
「‥‥ゆき、ゆき!」
「──‥‥‥え?」
‥はっと我に返った瞬間、目の前から桜が消え暗闇に包まれた。
暗闇なのもその筈、まだ深夜なのだから。
耳に残るのは痛いほどの声。
そして身体を揺さぶられる感覚が、ゆきを正気に返らせた。
「やっと気が付いたみたいだね」
「‥‥‥ヒノエ」
「お前を何度も呼んだけどね。オレを焦らすつもりだったのかい、薄情な姫君?」
ゆきの肩を掴んだまま、くすりと笑うのは赤髪の青年。
その言葉とは裏腹に、眼には安堵の光が宿っていた。
(あ、そっか。ヒノエに心配かけちゃった‥‥)
「ごめんね」
そっと謝りながら辺りを見回す。
月明かりに浮かぶのは、ゆき自身何度も見た事のある場所。
どうやら梶原邸の裏手を少し歩いた空き地らしい。
此処までふらふらと歩いていた事は分かった。
けれど‥‥
(今のは、なんだったんだろう)
夢にしては何だか不思議な気がする。
白昼夢なのか?
相手の顔が見えないのも、妙なのだ。
「ヒノエ。私、ボーっとしてた?」
「‥‥‥あぁ。枝を見上げていたお前は、まるで桜花精のように儚く見えた」
「いや、あのね、真面目に聞いてたんだけど」
ゆきが溜め息混じりに言うと、ヒノエは小さく笑った。
「ふふっ、酷いな。オレも真面目なんだけど。そうだな‥‥桜に見入っていたのか、それとも」
一旦言葉を区切って、肩に置いたままの手に力を入れた。
瞬間、ゆきの視界は塞がる。
頬に押し付けられるのは、硬い胸板で。
弁慶とは違った匂いに包まれて‥‥‥。
「───桜にお前が、魅入られていたみたいだね」
抱き寄せられた。
そう気づいた時はもう、振り解けない力が込められていた。
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