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言えないことが増えていく。

こんなに、好き、なのにね。








act14.私を繋ぎとめていて








ゆきの朝は遅い。

学生だった頃は一人なので気が抜けず、ギリギリでも遅刻はしなかったものの、京邸に住みだしてから事情が変わった。
幾つかの例外を除いて、いつも誰かが起こしてくれる。

弁慶と心を通わせてからは、その役目の殆どを彼が引き受けてくれるようになった。


───それも、最近までだけれど。



「ゆきちゃん、おはよう」



九郎に叩き起こされ、眠い目を擦りながら朝餉を戴いたのは、ここ暫くの日常光景。
それから一条に出かけようと草履を履いたゆきの背後から、柔らかい女性の声が呼び止めた。

ほんの少し。気付かれないよう溜め息を吐いて振り返る。

眼に映ったのは、一週間前から京邸の住人になった妙齢の美女の笑顔だった。



「‥おはようございます、朝緋さん」

「蔵はどこかしら?これを朔殿に頼まれたのよ」



古びた書物だろう。
数冊も抱えていれば、どうしても重たげに見える。

儚そうな容貌に抱える荷が居た堪れない。
そう、ゆきでさえ思ってしまう。



「あ、私がやりますから!」

「ふふっ、ありがとう。場所だけ教えてくれれば私が運ぶからいいの。ゆきちゃんは今から出かけるんでしょう?」



申し出ればやんわりと、優しい笑顔で制された。



「そうですか?‥‥えっと、そこを曲がってすぐです。ここからだと木が邪魔で見えにくいから」

「ありがとう。気をつけて行ってらっしゃい」

「はい。ありがとうございます」



ゆきは一礼をして、背を向ける。


門を出れば外は晴天。
陽射しの眩しさに眼を細めた。


明るい太陽とは裏腹なゆきの気持ち。


(ごめんなさい、朝緋さん‥)


彼女に対していつになっても打ち解けない事を、責めてしまう。
周りは「仕方ない」と言ってくれるけれど。


(もっと自信、持てればいいのかな‥‥)



「連れてきてもらったのよ、彼に―――会いたかった」

「‥‥‥朝緋殿」




初めて会ったあの日から、朝緋とは距離が掴めないでいた。

立ち止まって、ゆきは空を見上げる。


広がる青に浮かぶ雲。
泣きそうなほど‥‥‥眩しい。








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