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へにゃりと情けない笑いを浮かべたままのゆきを連れ、弁慶達が着いたのは団子屋。
ゆきが大ファンで通い続けている店。
それを選んだのは勿論、彼女を溺愛しているから。



「じゃ、お団子五本頼んでくるね!」



満面の笑みを浮かべたゆきを笑顔で見送る。

ちなみに五本とは、弁慶と将臣が一本ずつで、残りは小さな身体に収納する気らしい。



「なんつーか、相変わらず良く食う奴だな」

「そこも可愛いんですよ」



後ろ姿を見遣る弁慶の眼差しはとても優しくて。
若干複雑な心境ながらも、将臣は短く息を吐いた。

ゆきが帰ってくるまで僅かしかない今、手早く話を済まさなければ。



「‥‥先日は知盛が世話をかけたな。悪かった」

「‥‥‥何処から?」

「経正が敦盛にカマかけたら吐いた。この前邸に来た時、知盛への態度が不自然だったからな」

「あぁ‥‥敦盛くんも、怒りを溜めていたんでしょうね」



言外に敦盛を非難している弁慶の言に何も言えず、将臣は再び頭を下げた。

が、それには何も返さず、視線も恋人を捉えたまま。
まるで、外では僅かの時間も眼を離さないと決めているような。






‥‥‥‥それから、一瞬。
彼を取り巻く空気が、冷ややかになった。



「将臣くん。次、会った時は‥‥僕が彼を消します」

「‥‥胆に命じておくぜ」



「あれ、弁慶さんも将臣くんもそんな辛気臭い顔してどうしたの?」



割り込んだ明るい声音が、将臣には天からの救いに感じた。

ホッとしながら顔を上げた直後、



「辛気臭いってあのなぁ‥‥‥って、は?」



固まった。



「あ、あのね弁慶さん!新作の抹茶あんのと桜あんのが限定発売でね!」

「ゆきは本当に団子が好きですね」

「‥‥‥呆れてる?」

「いいえ、とんでもない。僕は、美味しそうに食べる君が可愛らしくて大好きなんですから」

「‥‥ええっ?やっ、やだなぁ‥」

「ふふっ。こうして僕の前で頬を染める君も可愛いですよ」




(いや待て可愛い以前の問題だろ)



将臣は内心で激しく突っ込みながら、もう一度ゆきを見た。




‥‥‥まだ何処かで消えない想い

それは、睦まじい二人の前に胸を痛めた。


それでも、今は祝福する気でいる。

ゆきが全身で弁慶を好きで。
弁慶もまた、ゆきを大切にしていて。


苦も涙も乗り越えた二人だから、もう自分の想いは秘めようと決めて一年が過ぎたのだから。




だが今はそれよりも、別のことで胸が‥‥‥苦しい。




「‥‥‥お前、十本も誰が食べるんだよ‥」

「あ、それ私」

「‥‥‥‥‥げっ」


ゆきを見るのが苦しい。

正確には『ゆきの手に持つ皿の山盛りの物体』を見る事が。

ピンクやら緑やら餡子やらみたらしやら‥‥‥。



「そんな欲しそうに見ても将臣くんは一本だけだからね!」

「だ、そうですよ?」

「いるか!‥‥‥胸焼けしてきた」




え?いらないの?じゃぁ私が食べちゃおう!

とにこにこ嬉しそうなゆきと、
良かったですね、とこれまたにこにこしている弁慶。


‥‥‥やっぱり二人の間に割り込める筈もない。


将臣はそう改めて思った。














その後、将臣と別れて。

繋いだ手に幸せを感じながら、二人河原をのんびり歩いて。





弁慶の笑顔がいつもより優しいから、ゆきはそれだけで満たされた。

だから、言い忘れてしまった。




‥‥‥大好きで、大好きで
もう、全て弁慶に委ねたいのだと。
全部弁慶のものになりたいと。




知盛の一件で決心した言葉。
このとき忘れた事を、後で泣くほど悔やむなんて思いもしなかった。















「お帰りなさい、待っていたのよ弁慶!」



京邸に着いた時、門から飛び出てきた女性が弁慶に飛び付いて。



「何故、君が此処に?」

「連れてきてもらったのよ、彼に」



弁慶とは旧知の仲なんだろうか?






大人びた美しい腕が、するりと弁慶の首に絡まったのを

―――ゆきは異世界の出来事のように、ただ呆然と見ていた。











act13.並んだ影を重ねてみるの

20090106




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