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聞けば今日は九郎に頼まれた用事も早く終え、そのまま何もなく六条の邸を出られたという。
何もなく、とわざわざ注釈するのは理由がある。
京の住民から訴訟や揉め事などが、常日頃から舞い込んでくるのだ。
中には訴えの途中で喧嘩を始めてしまう者もいる。
そんな彼らを上手く宥め、正確な話を引き出し、適切な処断をと九郎に奏上する役目が出来る人物となると、本当に一握りになってしまう。
目下の処は弁慶と景時、後は佐藤家の嫡子だけ。
そんな理由もあって弁慶の日常はかなり忙しい。
「天気が良いですし、河原でも散策しませんか」
「はいっ!」
たとえそれが散歩でも、昼間に弁慶と過ごせることは嬉しくて。
ゆきが腕を絡めると、弁慶も微笑んだ。
「よ!久しぶりじゃねぇか」
「将臣くん!久しぶりだよね!」
最後に会ったのは平泉。
そんな懐かしい友の姿に顔を輝かせたのはゆきだけだった。
否、弁慶もそれはそれは爽やかな笑顔だけれど。
「んだよ、弁慶。今思いっきり邪魔だと思ってんだろ?」
「とんでもない。僕が同じ八葉を邪険に扱った事はありませんよ」
「よく言うぜ‥‥」
「思いっきり、なんて言葉では足りない程邪魔だとは少し思いましたが」
「‥‥‥」
「‥‥えっ!?弁慶さん今さらっと‥!!」
相変わらずというしかない、犬猿の仲。
そして間に挟まれ、落ち着かなく二人交互に視線を投げ掛けるゆきだが。
‥‥やはり、自分が原因だなんて全く気付かない。
「た、立ち話でもなんだからお茶でも飲みませんか?」
結局、空気を察したらしい(?)ゆきの一言で、渋々ながらも同意したのは、双方話があったからのこと。
「お茶しない?って俺達の世界ではナンパの常套句だよな」
「え?てことは私がナンパしたの?」
「そうなるんじゃねぇの?」
「なんぱ、とは‥‥確か男が見知らぬ女性を誘う事でしたか」
「そう!さすが弁慶さんっ。随分前に言った事でも忘れないなんて素敵」
「ふふっ。ありがとうございます、ゆき。そうですか、ヒノエのことを『なんぱ』と呼ぶんですね」
「‥‥‥」
弁慶の眼が笑っていない。
絶対、絶対にヒノエに対して怒っている‥。
‥‥そう確信したゆきだったが、間違ってないらしい。
何故なら、こちらを見下ろす将臣の眼に、同情の光が灯っていたから。
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