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‥‥‥好き


大好き




泣けるほど、あなたが好き



















act12.我儘でもいいから










知盛と対峙した後。

気が抜けてしまったゆきを、六条堀川まで運んだのは、言わずと知れた弁慶だった。



「歩けるのに‥‥」

「僕がこうしていたいんですよ」



にこにこと笑う彼からは先程の名残も見出せない。
あの余裕なさはどこに鳴りを潜めたのか。
今浮かべているものは至極柔らかな表情。



けれど。ゆきは知っている。
だから降ろしてくれと強く言えなかった。


‥‥とても心配をかけたから。


前を歩く望美達を意識しつつも、ゆきは暖かい腕の中で眼を閉じた。














「‥‥ゆき!」

「無事だったんだね!良かった〜‥」



邸に到着すると、待機していた二人に出迎えられた。
郁章の式に何か話しかけている景時と、闇雲に飛び出す事を弁慶に禁じられていた九郎。

二人は弁慶の腕から降ろされたゆきを見、一様に安堵を浮かべた。



「‥ごめんなさい」

「全くだ、一人で出歩くなとあれ程」

「九郎。叱りたいのは分かりますが、彼女の手当てが優先ですよ」

「‥‥そ、そうだな。すまん」



では。と弁慶は短い断りの語句を残しゆきの手を引く。

大切な宝物の様に包む手と、信頼しきって預けている手には、割り込む隙間なんてない。



「見慣れていた、筈‥なんだがな」

「九郎さん?どうしたんですか?」

「‥‥‥いや、何でもない」



二人の後ろ姿を眼で追う九郎。
眉を潜めた彼に気付いた望美もまた難しそうな表情のまま。




首から下げた逆鱗の仄かな熱を感じて、唇を噛み締めた。







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