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「‥‥‥邪魔が入ったか」




低い声を発した後ろ姿に、弁慶は迷う事無く長刀を突き立てる。




木に凭れ座り込んでいるゆきの手前、背を向けていた銀色は、振り返らぬまま刃を受け止めた。

目にも止まらぬ素早さで両の肩越しに構えた、二刀によって。

正確に長刀の軌道と弁慶の癖、振り下ろす速度も見抜いているのだろう。
この男ならばそれも当然。

もとより仕留めるつもりはない。

弁慶もそうと知って牽制しただけのこと。




「‥‥‥源氏の軍師殿、か」

「ええ。ゆきから離れてくれませんか」

「ククッ‥‥」



交差した刀に一瞬力を溜めて、跳ね上げる。
長刀が離れた瞬間に立ち上がり、同時に弁慶に向き直った。


弁慶より少し遅れた望美が息を切らし草を掻き分けていた。




「知盛、ゆきちゃんを離して。私が相手になる」

「‥‥‥ほう。源氏の神子直々に、お相手いただけるとは‥‥光栄、か」

「先輩、俺も一緒に戦います」

「‥ああ。知盛殿、ゆきから離れて頂けないか」



望美に同調するかのように、譲と敦盛がそれぞれの得物に手を添えた。

だが、やんわりと押さえる手に動きが止まる。



「‥‥いいんですよ」

「弁慶さん?」

「彼は、今‥‥戦うつもりはないようですし。そうでしょう?」

「‥‥何?」



訝しげに知盛が眉を潜める。



好戦的な彼がこの機会を見逃さない。
知盛の反応も当然だと、望美は首を傾げながら隣を盗み見た。



柔らかい物言いとは裏腹に、弁慶は肝が冷えそうな眼光を湛えている。






ゆきに知盛が何をしたのか。
分からないけれど「嫌!」と彼女の声が聞こえた。
あれは、まるで悲鳴のようだったのに。


それは弁慶も聞いた筈で、もしかしたら自分より速く到着した彼はその瞬間も見ていたのかもしれない。

‥‥‥今此処に居る誰よりも、知盛に殺気を放っているのは、弁慶。




なのに、どうして。





「僕も此処で君を殺せないのは残念です。けれど、今回は見逃しましょう」

「クッ、お優しいことで‥?」

「ええ、ですから‥‥‥」





紫と薄茶色の、絡む視線。


ピンと張り詰めた空気を生み出しながら、当人達はただ睨み合う。



‥‥‥緊張で、見ている者は冷や汗が滴った。



一瞬だったのか、かなり時間が経ったのか。




フッと口端を歪めたのは知盛。


だらりと下げられた刀からは、持ち主と同じ妖しい煌き。




「‥‥‥いずれ‥」




最後にちらりとゆきを見る。


怯えた様子にニヤリと笑い背を向けると、ゆっくりと去っていった。








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