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君は、僕の路標

幸福を具現したひと













act11.だから、傍にいて








‥‥‥嫌な予感ほど当たる。


虫の知らせと呼んでも構わないだろう。

今、弁慶の胸中を占めているのは、まさに、予感。


軍師の資質として必要とされるのは、情報収集、分析、読心、先見、精神。
頭を使う全ての能力に優れている事が求められている。
弁慶は、生まれ持っての資質とそれを上回る努力を積み重ね、優れた軍師であると自他共に認める存在になった。

如何な事態にも二手三手先を読む冷静さと
不測の出来事にも動じない強靭な精神力。

時に冷酷にすらなれる自分には、それらに富んでいると思っていた。



「‥‥‥ゆき‥!」



なのに、今、形振り構わず走っている姿に余裕など欠片も感じない。


平常心を壊すのも、先を読めなくさせるのも、余裕を奪ってしまうのも。

更に言えば、調子を狂わされ、嫉妬を覚え、時々人の道を外してしまいたい衝動に駆らされる。




全て、ゆきに関係している。

これでは軍師としてどうかと思うが。
‥‥かと言って、手離せないのだから仕方ない。
とことんまで付き合うしかないのだろう。



これが愛しさなのか、憎しみなのか。

最早、境の無い感情でゆきに縛られている。



「弁慶さん!」



速度を緩めることなく視線だけ向けると、真剣な表情の望美と、後ろに敦盛が走っていた。
更に譲と、朔に手を引かれ白龍も続いている。

何か言いたそうな雰囲気に、気は急きながらも取り敢えず速度を緩めた。



「‥白龍がね、ゆきちゃんの気がおかしいって‥っ」



言葉の途切れた望美の代わりに、息切れすらしていない敦盛が続ける。



「ゆきの気が一時膨れ上がって消えたらしい。何かあったのかも知れないと、こうして探しに来たのだが‥‥」

「‥ああ、成る程」



頷いて、弁慶は密かに眉を顰めた。


ゆきの異変に即座に気付いたという白龍。
そして、心配して駆けつけた望美達。

彼らに抱いた一瞬の感情に名前を付けたくなかった。



「ゆきは何処に?」

「あそこの林の中だよ」



白龍が迷わず指し示した場所は、一条から六条への通り道に面した雑木林。



「‥‥僕を、迎えに来るつもりだったのか‥‥」

「弁慶?大丈夫?」



‥‥どうやら声に出ていたらしい。
弁慶は苦笑して、白龍の頭をくしゃりと撫でる。



「大丈夫ですよ。行きましょう」

「うん」

「ああ」



ゆきが、待っているのだから。








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